梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

『「自閉」をひらく 母子関係の発達障害と感覚統合訓練』(つくも幼児教室編・風媒社・1980年)精読・37

《6.皮膚感覚訓練》
・刺激を与える場所は、子どもの気に入るところならどこでもよい、ということが原則である。
・エアーズは触覚刺激を重視しているので、触覚、圧覚、痛覚、振動覚、くすぐり覚、温(冷)覚、水中覚の順に、活動例を紹介する。
・皮膚感覚を刺激する活動は、スキンシップといわれている行為に含まれていることが多い。母子関係を育てるという意味でも、こうした活動を積極的に取り入れていきたい。
・日本に古くから伝わる動作あそびには、感覚刺激を伴うものがいろいろある。数種の感覚刺激が組み合わされているものも多い。(例・「にほんばしこちょこちょ」)
A.触覚
・触覚刺激はいろいろなもの(保育者の手のひら、子ども自身の手のひら、ザラザラした布地、滑らかな布地、ブラシなど)で子ども自身の身体を触れたり、こすったりすることで与えられる。
◆いろいろなもの:お風呂用アカスリ、ナイロンタオル、タオル、なめし革、ビロード、ボア、毛布、つめブラシ、ボディブラシ、フェイスブラシ、シッカロールのパフ、化粧用パフ、「皮膚感覚促進ブラシ」(アメリカ・プレストン社)、電動消しゴム器
・刺激を与える場所は、何カ所か試してみて、子どもが喜ぶ場所(いやがらない場所)を見つければよい。一般に、手の甲と前腕の外側は最も抵抗が少なく、顔、腹部(体側)や脚は抵抗が大きいといわれる。ブラッシングする際には、腕ならばひじより下を、脚ならば膝より下を刺激するようにする。
・子どもがブラッシングを嫌がる場合は、もっと弱い刺激から始める必要がある。エアーズは、子どもの体表面を敷物や他の物体に触れさせておく、寝るときにテリー織りのビーチタオルの上に寝かせたりして慣れさせることを奨めている。
・触覚刺激は、刺激された皮膚の下にある筋の収縮を促すので、異常な筋緊張がある部分については注意しなければならない。また軽い触覚刺激は、網様体賦活系に対して高い興奮性をもつため、てんかん発作を起こしやすい状態を作り出す。
・口のまわりを刺激することは直接発声を促し、手や指を刺激することは指先の活動を促す、といった波及効果も考えられる。
◆触覚刺激の活動例
①手のひらで身体のあちこちを撫でたりこすったりする。②手のひらで腕に口をつけて音をたてる。③顔、耳、手足などに息を吹きかける。④あちこちにセロテープやシールを貼る。⑤子ども自身の手で、身体を撫でたり、こすったりさせる。⑥タオルやビロードなどの布でこする。⑦せっけんの泡だらけにする。その泡でこする。⑧いろいろな固さのブラシであちこちこする。⑨砂あそび。⑩シャワーで水をかける。⑪洗車用ノズルで水をかける。⑫ホースで水をかける。⑬水道の流水に手をかざす。⑭そっと抱く。⑮パフやフェイスブラシなど柔らかいブラシであちこちをこする。⑯電動ブラシでこする。
【感想】
・私は教員時代、自閉症と診断された高等部の男子生徒に「皮膚感覚訓練」を行った経験がある。その生徒は言葉を発することがなく、何でも臭いをかぐ特徴があった。また、いつも両目の下をひっかいているようで、その傷に瘡蓋ができていた。母親は「睡眠時間が短い」ことを心配していた。精神科医・飯田誠氏の指導・助言をあおぎ、氏自身が開発した「電気ブラシ・電気針」を使って、睡眠時間が安定することを目標に、1日4回(2回は学校、2回は家庭で)、1回15分程度のマッサージを行った。その方法は「一対一で向かい合い」、両手、両足、腹、背中を電気ブラシでマッサージする。次に、目、鼻のツボを電気針で刺激する。生徒は嫌がることなく、そのマッサージに応じた。その訓練は5月から9月まで、ほぼ5カ月続けられたが、秋になると「カゼをひかせたくない」という母親からの要望で中止した。目標の「睡眠時間を安定させる」ことは達成できなかったが、目の下の瘡蓋はきれいに消失していた。
・「感覚統合訓練」は、長期間持続して効果が現れる「漢方薬」のようなものだと、私は思う。飯田氏は「改善(治癒)の確率は5割」と明言されていた。そのマッサージを、その後も続けていたらどのような結果になっただろうか。
・それから数十年後、「統合失調症」と診断された四十歳台の女性に、その「電気ブラシ・電気針」でのマッサージを試みたところ、女性の体調(自律神経失調状態)は見事に改善された事例がある。女性は「気圧の変動」に敏感で、胸痛、発汗、動悸、不眠を訴えていたが、それらの症状はかなり軽減されたということである。
・したがって、ここで紹介されている様々な活動例は、すぐに効果が現れる場合もあれば、なかなか変化がみられない場合もあるだろう。副作用に留意しながら、1回15分程度、1日4回というサイクルを長期間「持続すること」が大切だと、私は思った。
(2016.5.8)