梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「愛着障害」(岡田尊司・光文社新書・2011年)要約・13

《第5章 愛着スタイルと対人関係、仕事、愛情》
1 安定型愛着スタイル
【安定型の特徴】
・安定型の第一の特徴は、対人関係における絆の安定性である。自分が愛着し信頼している人が、自分をいつまでも愛し続けてくれることを確信している。自分が困ったときや助けを求めているときには、それに必ず応えてくれると信じている。 
・もう一つの特徴は、率直さと前向きな姿勢である。人がどういう反応をするかということに、あまり左右されることがない。
・自分が相手の要求を拒否したり、主張を否定したりすると、相手が傷つき、自分のことを嫌うのではないかと心配したりはしない。自分の考えをオープンにさらけだした方が、相手に対して誠実であり、お互いの理解につながると考える。
・互いに意見を述べて、論じあうときも、がむしゃらに議論に勝とうとしたり、感情的に対立したりするのではなく、相手への敬意や配慮を忘れない。相手の主張によって自分が脅かされたとは受け取らないので、客観的なスタンスを保ちやすい。
・愛する人との別れに際しても、悲しい気持ちを抱きながらも、不安定になったり、生きていく勇気を失ったりすることはない。
・仕事と対人関係のバランスが良いことも、大きな特徴である。
2 回避型愛着スタイル
《回避型の特性と対人関係》
【親密さよりも距離を求める】
・回避型は、距離をおいた対人関係を好む。親しい関係や情緒的な共有を心地よいとは感じず、重荷に感じやすい。
・人に依存もしなければ、人から依存されることもなく、自立自存の状態を最良とみなす。他人に迷惑をかけないことが大事だと、自己責任を重視する。
・もう一つの大きな特徴は、葛藤を避けようとすることである。人とぶつかりあったりする状況が苦手で、自分から身を引くことで事態の収拾を図ろうとする。
・その一方で、ストレスが加えられると短絡的に反応し、攻撃的な言動に出てしまいやすい。冷静そうに見えて、切れると暴発してしまう。
【何に対しても醒めている】
・本気で熱くなることが少ない。情動的な強い感情を抑えるのが得意で、それにとらわれることもない。そうすることで、傷つくことから自分を守っているとも言える。
・愛する人との別れに際してもクールである。
・(実験結果によると)感情的な反応の認知において鈍感な傾向がみられる。表情の読み取りが不正確である。
【自己表現が苦手で、表情と感情が乖離する】
・自己開示を避けるので、自己表現力が育ちにくい。
・親しみを求められたり、愛情を確かめられたりするようなサインに無頓着で、気づかないということも多い。
・喜びや関心の表情が乏しい。
・表情が感情と食い違っていたりする。
・仕事や趣味などの領域で自己主張する傾向が強い。それは聖域であり、誰からも侵されることを好まない。
【隠棲願望とひきこもり】
・面倒くさがり屋でもある。面倒なことを後回しにする。(川端康成、夏目漱石)
【種田山頭火の場合】
・「私が自叙伝を書くならば、その冒頭の語句として、・・私一家の不幸は母の自殺から初まる・・と書かねばならない」
・祖母の養育→小学校は欠席がちで成績不振→周陽学舎で首席→山口中学で並の人→早稲田大学に進学・中退→実家の酒造りに取り組む→ 見合い結婚→酒造り破綻→熊本で古本屋→額縁の行商→離婚(その気はなかったが、兄に捺印を迫られて)→世捨てと旅の人生。【回避型の恋愛。愛情】
・どろどろしたものを嫌う、淡泊なところがあり、相手との絆を守ろうとする意志や力に乏しい。
・川端康成「愛の道は忘却という一筋しかあり得ぬ」
【パートナーの痛みに無頓着】
・愛するパートナーが苦しんでいても、そのことを自分の痛みのように共感することが難しい。心の構造、脳の働き方自体が違っているので、他人事として客観的にしか受け止められない。共感的な脳の領域の発達が抑えられていると考えられる。
・場合によっては、有利に働くこともある。客観的に物事を見極めたり、対処したりすることができる。冷静な判断力が求められるような専門職に向いている。職業的な能力においては一流の技術の持ち主であることが多い。
【助けを求められることが怒りを生む】
・ロールズらの実験:交際中のカップルを対象、女性だけが苦痛を伴う実験の被験者になってもらうことを告げる。それから5分間、そのことを聞かされたカップルがどういく反応を示すかビデオで記録する。その後、予定していた実験は中止になったと告げる。
・回避型の人は、男女とも強い怒りをみせた。男性は、女性の不安が強く、男性の助けを得ようとすればするほど強い怒りを示した。女性は、不安が強いほど、男性の支えが得られない場合や男性の怒りが強いほど、強い怒りを示した。(悪循環)
・男女を問わず、回避型のパートナーをもつことは、いざというときに助けになってくれないどころか、怒りの反応に遭遇することを覚悟しなければならない。頼られることは面倒事であり、面倒事をもち込まれることは怒りを生むということなのである。
3 不安型愛着スタイル
《不安型の特性と対人関係》
【なぜ、あの人は、気ばかりつかうのか】
・不安型の人は、相手の表情に対して敏感で、読み取る速度は速いものの、不正確であることが多い。怒りの表情と誤解してしまうことが多々ある。一番の関心事は「人に受けいれられているかどうか」「人に嫌われていないかどうか」にあるからだ。
【拒絶や見捨てられることを恐れる】
・「愛されたい」「受けいれられたい」「認めてもらいたい」という気持ちが非常に強い。拒絶されたり、見捨てられることに対して、極めて敏感である。その結果として、相手に逆らえないということが、しばしばみられる。(太宰治)
・支配的なタイプの人では、相手が自分を欺こうとしているのではないか、裏切ろうとしているのではないかという猜疑心に姿を変える。
・他者というものを、自分を傷つけたり、非難したり、うっとうしく思う存在としてみなす傾向がある。自分自身についても、取り柄のない、愛されない存在と思いがちである。
【すぐ恋愛モードになりやすい】
・対人関係は、愛着関係と連携関係に二分される。愛着関係は情緒的なつながりであり、連携関係は、利益や目的で結びついた、便宜的で合理的なつながりである。愛着関係は持続性をもつが、連携関係は、状況次第ですぐに解消される。
・不安型の人は、連携関係を愛着関係と錯覚してしまうことが起きやすい。
【べったりとした依存関係を好む】
・距離が保たれている限り、とても優しく、サービス精神があり、接していて心地よいが、親密な関係になったとき、急激にもたれかかってきて、相手のすべてを独占したいという傾向が顕著になる。親密になればなるほど、急速に自分と他者との境界が曖昧になり、相手を自分の一部のように思い込んでしまう。自分が愛されていることを確かめようとする過剰確認行動も認められやすい。
・通常は、24時間いつでも相手をしてもらえるような恋人やパートナーが、愛着対象と同時に依存対象となって、不安型の人を支えることになる。
【ネガティブな感情や言葉が飛び火しやすい】
・不満や苦痛といったネガティブなことを、つい口に出してしまう傾向がみられる。ネガティブな感情が広がりやすい。
・否定的な感情にとらわれやすく、些細なことをいつまでも引きずりやす性向は、怒りをじくじくと長びかせやすい。
・怒りや敵意の矛先が、自分自身にも向けられやすい。(うつ)
【パートナーに手厳しく、相手の愛情が足りないと思う】
・不安型の女性の場合、不満やストレスを、パートナーに対して強くぶつける傾向がみられる。(→産後うつ)
・パートナーに対するネガティブな評価は、パートナーのモチベーションを低下させてしまう。(悪循環)
【両価的な矛盾を抱えている】
・両価的とは、求める気持ちと拒絶する気持ちの両方が併存している状態のことである。
・不安型の人では、期待や賞賛に対しても、うれしい反面、もし相手の期待を裏切ったらと考えてプレッシャーになってしまう。
【不安型の恋愛、愛情】
・自分が愛されているかどうかということは、非常に大きなウェイトを占める。(回避型の人には想像できない)
・不安型の人は、愛されていると感じると、自分は価値のある存在だと思えるが、愛されていないと感じたとたんに、自分が無価値になったように感じやすい。パートナーから素っ気なくされたり、否定的なことを言われたりすると、急に自信がなくなり、落ち込んでしまう。それは、パートナーに対する評価にも跳ね返ってくる。自分の愛情を与えられないとなると、パートナーの存在自体が無意味になってしまう。
4 恐れ・回避型愛着スタイル
・恐れ・回避型は、対人関係を避けて。ひきこもろうとする人間嫌いの面と、人の反応に敏感で、見捨てられ不安が強い面の両方を抱えているため、対人関係は錯綜し、不安定になりやすい。
・疑り深く、被害的認知に陥りやすい傾向がある。自分をさらけ出すのが苦手で、うまく自己開示できないが、一方で、人の頼りたい気持ちも強い。
・養育者との関係において深く傷ついた体験に由来していることが多い。まだ愛着の傷を引きずり続けている未解決型の人も多い。些細なきっかけで不安定な状態がぶりかえし、混乱型の状態にスリップバックを起こしやすい。
・混乱型は、虐待された子どもに典型的にみられるもので、愛着対象との関係が不安定で、予測がつかない状況におかれたことで、一定の対処戦略を確立できないでいるものである。
年齢とともに、対処戦略を確立して、一定の愛着スタイルをもつようになるのだが、別離体験や孤立的状況などにより、愛着不安が高まったり、愛着の傷が再び活性化すると、混乱型の状態に戻ってしまうことがある。境界性パーソナリティ障害は、愛着という観点で言えば、混乱型に逆戻りした状態だと言える。混乱に呑み込まれると、情緒的に不安定になるだけでなく、一過性の精神病状態を呈することもある。
【漱石の苦悩の正体】
・漱石の愛着スタイルは、ベースは回避型であろうが、恐れ・回避型と言うこともできる。
・漱石の作品は、いかに自分の正体を見破られないように隠蔽しつつ、かつ自分を表現するかという二つの相反する要求の微妙なバランスの上に成り立っていた。(「道草」「硝子戸の中」)
・自分の幼時を回想したエピソードは、曖昧模糊として距離があり、他人事のように淡々と語られる。一方で、自分の評価や周囲の反応というものに非常に敏感だった。少しでも自分がないがしろにされたと思うと、激しい怒りを抑えることができなかった。
・晩年の漱石は、被害妄想や幻聴といった一過性精神病症状と胃潰瘍が何度もぶりかえした末、命を奪われることになった。


【感想】
・この章では、「愛着スタイルと対人関係、仕事、愛情」について、それぞれのスタイルの特徴が述べられている。安定型は、すべてに問題なく物事が推移していくように記されているが、それは「理想」であり、実際には極めて稀な事例ではないか、したがって、世の人々は、「回避型」「不安型」「恐れ・不安型」のいずれかに分類されるというのが「現実」であろう。「回避型」は、言い換えれば「ドライ」で「淡泊」、「不安型」はその反対で「ウェット」で「しつこい」、「恐れ・不安型」は、「非常識」で「病的」ということになるのだろうか。
・いずれにせよ、そうした観点で世間の事象や人間模様を「観察」することは、極めて重要かつ有効である、と私は思った。古くは小平善雄、大久保清、永山則夫、近くは宮崎勤、宅間守、神戸の少年A、佐世保の少女に至るまで、「わけがわからなかった」(常軌を逸した)事象の謎が解き明かされる。すべては、「ドミノ倒し」の結果だけを見て「そう思った」だけのことであり、その「始まり」を見極めなければならない、ということであろう。
・さて次章は、その「始まり」をどのように防ぐか(「愛着障害の克服」)について述べられている。私の期待は膨らむばかりである。
(2015.9.30)