梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「障害乳幼児の発達研究」(J.ヘルムート編・岩本憲監訳・黎明書房・昭和50年)抄読・3

「障害乳幼児の発達研究」(J.ヘルムート編・岩本憲監訳・黎明書房・昭和50年)に収録されている論文「正常幼児と異常行動をもつ幼児の母ー子相互関係行動の比較」(ナーマンH.グリーンベルグ)を精読する。


Ⅰ はじめに
・この報告は、異常行動をもたない幼児と母親(M-CI)および異常行動をもつ幼児と母親(M-AI)の行動的相互交渉の研究に関するものである。情報資料は、録音面接のときの幼児についての話の際に得られた。その幼児被験者は、いつも、面接の際にそこにいて、その幼児と母親との交渉を観察者は観察記録することが可能であった。映写フィルムが、一連の場面での母子について作成され、そのフィルムも重要な情報源であった。
Ⅱ 初期の発達についてのいくつかの一般的概念
A 行動の分化と刺激作用
・われわれは、幼児の発達を、行動パターンと行動の分化の過程であらわれる機能を描き説明することで、あらわす。
・分化的、組織的行動の出現は、発達的進歩や適応水準の向上の証拠資料となる。
・発達的進歩や適応水準の向上の「過程」は、お世話(環境刺激作用、生物学的欲求の充足)、行動的混乱を統制すること、幼児をなだめるというような刺激作用によって強く影響されるだろう。
・発達が進行する上で重要なことは、幼児の側の「行動的可塑性」の向上、「刺激への耐性」、「行動の統制」であり、それらが、適応水準の向上の要因になる。
・内的(内臓の)、外的(身体的)刺激の特性と中枢的メカニズムの機能的使用は、中枢的な神経生理学的分化の程度と質、個性化、中枢的基盤の総合化、感覚閾の発達に影響する。分化の発達的過程は、刺激作用に影響されるから、発達初期の刺激作用の特徴の重要性は、適応の特性とその過程にさがし求められる。
B 刺激作用と母親の行動と幼児の発達
・制限された環境で飼育されている動物を使った研究で、インプット刺激の制限は、破壊的効果をもつし、また、知覚や学習や社会化のような機能を障害した。極端に特殊な行動に対する感受性を発達させる実験動物や、認知的、知覚的、社会的機能の発達に必要な行動の分化に失敗するような動物を育てる環境を計画することは比較的容易なことである。
貧弱な感覚的環境は、行動の発達を阻止し、生物学的発達を遅滞させ、中枢神経系の変容をもたらす。
・幼児の養育は、普通は母親によってなされ、母親は、特に子どもの世話と刺激作用の実際の行動面で、刺激作用の量と多様性に重大な影響をおよぼす。そのような努力の効果性は、吸乳器官・視覚的聴覚的組織・触覚・痛覚・圧覚・位置感覚・運動感覚のような、子どもの感覚運動的組織の要素と母親との相互関係に依存している。幼児ー母親の相互交渉における世話と刺激作用の特性と、子どもの感覚運動器官の機能的使用は、行動分化や組織化の特性に大きく影響をおよぼすし、また、感覚閾を高め、初期の適応的発達を高める。
・要するに、母親の行動は、以下の刺激作用の使用を通して、幼児への刺激作用の重要な要素である。
1.幼児が受ける特殊な刺激の選択。(感覚的環境の形成)
2.分化を促進、維持し、神経感覚的、神経運動的器官の機能的統合を支える。
3.感覚閾を上げ、下げすることによる;
4.行動的状態を変え、興奮状態を統制し、注意深い機敏な行動を養うこと。
5.特殊な世話の方法を実行すること。
・生来の神経欠陥をもたないか、他の重大な出産異常を伴わない幼児の異常行動の出現は、発達の崩壊の証拠と考えられ、また不適な、不十分な、誤った、あるいは極端な虐待的な育て方と刺激作用の結果の証拠と考えられる。乳児と幼児の世話やしつけやその他の刺激作用のそのような障害の結果は、誤った発達、ストレスに対する弱さ、認知的、感覚運動的、社会的、情緒的機能における異常性の発現の大きな可能性を示す幼児の異常な、特殊な行動の出現から知られる。異常行動は、授乳と排便の障害、周期的な多動性、多様な固執的習慣、行動の混乱状態の頻発、行動の主要な領域の誤った、あるいは遅滞した発達を含んでいる。特殊な変化は、吸乳行動と運動パタンと、身体的、感覚運動的、社会的、適応的発達において生じる。
・以前の研究(Greenberg 1970)は、次の4つの異常行動群を示した。
1.失敗ー成功症候:体重増加の低い率、遅滞と悪習
2.鉛中毒による異食症
3.身体ゆすりや頭たたきのような型式化された多動徴候
4.一般的な異常性の徴候


《注》
・ここまでは、この論文の「前置き」(初期の発達についての一般的概念)である。要するに、母親は「子どもの世話」と「刺激作用の実際の行動面」で、重大な影響をおよぼす、ということであり、実験動物の例と同様に「インプット刺激の制限は破壊的な効果をもつし、知覚や学習、社会化のような機能を障害する」のではないか、という仮説である。
・その破壊的な効果、障害の例として、筆者は「身体ゆすりや頭たたきのような型式化された多動徴候」を挙げていることは、大変興味深かった。「自閉症」の「常同行動「自傷行為」に酷似しているからである。
・さしあたっての私の関心は、(「自閉症」という)異常行動をもつ幼児の「母ー子相互関係行動」は、正常幼児の「母ー子相互関係行動」とどのように異なるか、その異なる原因は何なのか、という一点に絞られている。期待をもって、以下を読み進めたい。(2014.6.6)