梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「幼児の言語発達」(村田孝次著・培風館・1968年)抄読・52

■音声識別と発声
【要約】
 音声識別力が、子どもの漸次発達変化していく音韻とその体系化にそって発達することは明らかである。低い発達段階では、一部の音声だけを識別し他の音を無視するとか、特定の音声を彼自身の音韻範疇に従ってまとめたり相互交換したりする、ということが考えられる。
 レネバーグ(Lenneberg,1964)は、60名のダウン症児を出生時から観察し、その言語音声の模倣能力を調べた。彼らの音韻構造が正常児にくらべてきわめて未熟であり、その順調な発達が期待できないことをたしかめ、手本音声に近似する音声を発するためには、非常に複雑な音韻識別力が必要であろうと述べている。
 高い水準の音声識別力を獲得するためには、子ども自身による発声活動、とくに喃語活動と模倣発声活動が不可欠だと一般に考えられているが、この見解に対立する一つの報告がある。
 この子ども(8歳・先天性調音神経障害に原因する無談話症)はかつて喃語活動も音声模倣もまったく行ったことがなく、発声はスイス・ヨーデルのような叫び声に限られ、言語的伝達はまったくできない。しかし、その知能はIQ80~85と推定され、精神医学的検査にも異常は認められなかった。重要な事実は、その談話理解力のほうは年齢相当の水準にあるということである。この子どもは、Does ice cream feel cold your tongue?とか、Is a spider a light animal?というように、かなりむずかしい質問をうけたが、状況の支持なしにかなりよく理解しており、now、later、always、yedterdayなどの語の意味や、能動態と受動態の関係なども理解できる。
 これは、言語の習得が調音活動とは無関係に、感性的学習によって可能であることを示すものである。
 調音神経障害では、調音活動という複雑で微細な下行性神経活動による筋の運動は妨げられているが、感覚系および調音以外の神経中枢に障害はない。中枢過程としては運動反応は習得されていると考えられる。調音神経障害の場合、運動中枢水準での“調音活動”が形成されると考えるとき、両者の機制の共通性はさらに高まる。


【感想】
 ここでは、レネバーグによる2つの報告が紹介されている。一つはダウン症児の音声識別力に関するものであり、もう一つは調音神経障害に原因する無談話症のケースである。 ダウン症児の音声の音韻構造はきわめて未熟だということはわかったが、音声識別力も未熟であるかどうかは判然としなかった。また、調音神経障害、無談話症という障害も私には聞き慣れない言葉だったが、要するに「ことばが出ない」と考えてよいか。脳性まひ児の中にも、発声・発語は困難だが、言語理解は年齢水準に達しているというケースは少なくない。
 したがって、ここで著者が述べていることは、①《音声識別》ができないから《発声》ができない、②《音声識別》ができても《発声》ができない、という二つの場合があるということなのかもしれない。
 自閉症児の場合は、《(自動的な)音声識別》も《発声》もできるが、《音声(言語)理解ができない》と考えてよいか。以下を読み進めることでたしかめたい。
(2018.6.24)