梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「自閉症治療の到達点」(太田昌孝・永井洋子編著・日本文化科学社・1992年)検討(1)・Ⅰ章・1

*第Ⅰ章の以下の部分は、自閉症が「認知障害」であることの論拠が述べられていると思われるので、要約しながら逐条的に検討を加えてみたい。


《要約》
【4.自閉症の認知障害】
・自閉症の特徴的な行動(3つの必須症状)は、親の性格や養育態度により強まったり弱まったりすることもある。また、現代文明の“非人間的な”環境にも影響を受ける。それらこそが自閉症の原因とまことしやかに述べ立てる人もいる。
・確かに、自閉症児の行動がこれらの環境因に影響を受けるとはいえ、それらの要因は自閉症という障害をつくりあげる原因ではない。このことは、この間の研究や臨床経験が明らかにした重要な進歩であった。
・それでは、自閉症の原因は何だろうか。特徴的な3つの必須の行動の背後にどのような精神機能の障害があり、どのような脳の機能障害が対応しているのだろうか。このように、より本質的なものを探ることが本態研究である。この節では、認知機能のレベルにおける障害の本態について、発達的観点から述べる。


《検討》
 自閉症の原因は、今のところ誰にもわからない、というのが現状である。環境要因かもしれない。本人の「脳の機能障害」かもしれない。しかし、著者らは「それら(環境)の要因は自閉症という障害をつくりあげる原因ではない」と断定している。その根拠は何だろうか。「この間の研究や臨床経験が明らかにした」という説明では不十分である。同じ親に育てられた兄弟の一方は自閉症になり、他方は自閉症にならなかったという事例があるからだろうか。それは「同じ親が同じ環境の下で同じ育て方をする」ことを前提としている点で無理がある、と私は思う。また兄弟が一卵性双生児の場合、一方が自閉症になり、他方がならなかったという事例がある。「同じ親が同じ環境の下で同じ育て方」をしたかもしれない。確かに一方の「脳の機能障害」が疑われるが、一卵性双生児であるならば他方にも「脳の機能障害」が疑われることにはならないか・・・?、といったことから、自閉症の原因は未だに特定できない。著者らは「確かに、自閉症児の行動がこれらの環境因に影響を受けるとはいえ」と述べているのだから、自閉症児のどのような行動が、どのような環境の影響を受けるか、についても追求するべきである。環境よりも脳(精神機能)の方が「より本質的なもの」だと判断する基準は何か。「発達的観点」だろうか。発達が環境とかかわりなく、環境を無視して行われるはずもない。「環境とのかかわり」こそが発達の原点であることは(「発達的観点」の)イロハである。
 したがって、ここで「それら(環境)の要因は自閉症という障害をつくりあげる原因ではない」と断定することは、早計である。確かに「脳の機能障害」かもしれない。しかし、その「かもしれない」が「おそらくそうだろう」になり「きっとそうだ」「間違いない」と《思い込み》、「みんなそう思っている」という《決めてかかり》になれば、論理とは言えない、と私は思った。
(2016.11.22)