梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「障害乳幼児の発達研究」(J.ヘルムート編・岩本憲監訳・黎明書房・昭和50年)抄読・4

Ⅲ 親子関係に関する批判と「障害乳幼児の発達研究」(J.ヘルムート編・岩本憲監訳・黎明書房・昭和50年)抄読・3幼児ー母親相互交渉の研究
A はじめに
・環境は、児童期の精神的、社会的、情緒的発達に影響するという概括的な仮定は、発達に及ぼす大切な環境要因は、親のパーソナリティと行動の間に見出されるという考えの基礎になる。また、両親の影響は、発達の初期と、母親との接触が主である幼児期において大きいと、一般的に信じられている。
・これらの考えに従うと、母親の行動は、初期の発達のコースを変容させるので、特に人生の最初の期間にある幼児の発達の環境的影響の研究は、普通、幼児ー母親あるいは幼児ー母親代理者関係の調査を含む。そのような概括的な仮定は、一般的な公理を与え、家族間、両親ー子ども、幼児ー母親の相互交渉の研究を必要とするが、これらは、研究計画に必要な詳細な概念化を欠いている。
B 幼児ー母親の相互交渉の直接的研究
・親子関係についてのほとんどの研究の目的は、子どもの行動と発達における親の行動の影響について知ることにあった。相互交渉についての直接的研究は、多様な状況で行われる観察を記録する項目見本法ですすめられた。自然的観察は、要約した叙述、詳細な物語、逸話、印象などの形態で記録されるか、いろいろな尺度が引き出されるプロトコルを利用して行われた。
・他の研究では、観察中あるいはその直後に、親と子どもの行動の相互交渉の特殊な系列や交渉内容を、予め選定したカテゴリーで評定した(Hattfield, Ferguson & Alpert 1967, Baumrind 1967)。相互交渉の系列は、時間見本法による観察により研究された、(Zunich 1962)。最近、相互交渉の継続的な記録は、重要な尺度を与えてくれる電子工学的監視装置により可能になってきた(Matarazzo, Saslow & Matarazzo, 1956)。
C 幼児ー母親の相互交渉の間接的研究
・幼児ー母親の相互交渉、親としての動機や特性や態度、最近の習慣、子どもを育てる上での日課(きまり)を知るために、訪問面接と質問項目が用いられた。
・親の行動と発達に関する多くの研究は、質問法、面接法、回顧的資料に依存している(Freeberg & Payne 1967)。しかし、それらの報告は、はなはだ主観的であると考えられている(Kogan & Wimberger 1966)。回想的研究において、その幼児の年齢を低く評価しがちであるというようなずれが生じやすい(Haggard, Brekstad & Skard 1960)。
・これらの方法は、子どもの初期の発達上の母親の刺激、しつけや世話の影響について知るために行われる研究に、実質的に広範囲に利用されているが、まだわずかのことしかわかっていない。
D 方法論的問題(欠点)
・第1に、母親のどの行動が幼児の発達のどの側面に影響するかについて注意深く明確化し、論理的に公式化し、明細化した概念化が欠如している。
・第2に、2組の資料が与えられたら、たいての研究者は、その共通の概念を報告することができないか、1組の親と幼児の資料を結びつける概念化を行うことができないだろう。そのような公理化、推論が準備されるべきである。
・第3に、標本上の困難な問題があった。被験者として母親を募集する手続きは適切であったか、研究者は被験者の自己報告以外に被験者のことを知らない、代表的と考えられる同一の状況のもとで観察されたかどうか、など。
・また、技術的、手続き的観点からも、観察者にはきびしい限界がある。“意味のある”特殊な、重要な出来事を明確に確認、承認することは、(一般的な尺度がなければ)「評価者間で一致させる」ことは困難である。
・要するに、幼児と母親の相互交渉の研究を可能にするためには、以下の問題が解決されなければならない。
1.観察可能な幼児ー母親の行動的相互交渉の選択を導く初期の発達理論は何か。
2.評価法は、初期発達の概念に関連している相互交渉の情報を得るか。
3.相互交渉の変数は、実際の身体的な母親の行為、行動の記述を含んでいる経験的な観察可能なものとして述べられているか、非経験的変数は、抽象概念として認識されるか、幼児ー母親の相互交渉の変数は、解釈や主観を要する叙述を含んでいたか、あるいはそれが経験的な叙述に近いか。


《注》
・この章では、「幼児ー母親の相互交渉」をテーマとする研究の「ねらい」「意味」と、先行研究に対する批判、また「方法論」上の困難点などについて述べられている(ような気がする)が、翻訳文体のため、その真意は判然としなかった。
・いずれにせよ、「幼児ー母親の相互交渉」は。「育児」上の問題であり、それを「科学的」に究明しようとするためには、多くの困難が「待ち受けている」に違いない。それらを、筆者らがどのように「乗り超えよう」とするのか、興味津々である。期待を持って、次章を読み進めたい。(2014.6.7)