梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

吉本芸人Mの《裁判》

 吉本芸人Mが「週刊文春」を名誉毀損罪で訴えた裁判が始まった。この裁判で明らかになることは何か。もちろん、「Mが性的加害を加えたか否か」という事実ではない。「週刊文春」が「Mの名誉を毀損したか否か」という一点である。もし「週刊文春」が裁判で負ければ、Mの性的加害は「なかったかもしれない」。真実は一つだが、当事者(Mと被害者)しかわからないことである。Mには「加害意識」がなかったとしても、被害者に「被害意識」があったとすれば、性的加害は成立するのかどうか。
 ところで、Mが毀損された「名誉」とはどのようなものだろうか。お笑い芸人の第一人者としてテレビ界に君臨していられるということだろうか。その地位が危うくなるということか・・・。それとも人間としての尊厳が汚されたということだろうか。いずれにせよ、Mが主張するように、「週刊文春」の記事が事実無根であり捏造に過ぎなかったとしたら、M自身、なんらやましいことはないのだから、泰然自若として「いつも通り」の芸能活動を続けていればよかったのではないか。スポンサーが敬遠し、テレビ番組がなくなったにせよ、それはMの責任ではない。「週刊文春」が「事実を証明」しないかぎり、Mの名誉は毀損され続けるかもしれない。だが、「真実はいずれ明らかになる」、そう信じておのれの不遇を受け入れたとしても、Mの名誉(人間の尊厳)が損なわれることはない。まして《笑われ》《蔑まれ》ることを「売り」にしている「お笑い(テレビ)芸人」たちではないか。そのトップにいるMが、いまさら「名誉棄損」を訴える(被害者ぶる)なんて、噴飯ものなのだ。
 この問題の本質(明らかにされなければならないこと)は、あくまで「Mが性的加害を加えたか否か」という一点だが、それが今回の裁判で究明されことはない。だから、あまり大騒ぎしないほうがよい。日本社会の未熟さ、幼稚さが露呈されるだけである。
(2024.3.30)