梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「風美劇団」(座長・風美涼太郎)

【風美劇団】(座長・風美涼太郎)〈平成20年10月公演・柏健康センターみのりの湯〉                                           「劇団紹介」によれば、〈プロフィール 風美劇団 不二浪企画所属。平成16(2004〉年、風美翔蔵現太夫元より、二代目・風美涼太郎座長へと受け継がれる。芝居では太夫元やベテラン女優陣がしっかりと脇を固めて安定感があり、舞踊ショーでは双子の弟たちが元気に大活躍して楽しませてくれる。座長 風美涼太郎 昭和60(1985)年4月4日生まれ。血液型A型。大阪府出身。初舞台3歳。生き生きとした若手だが、落ち着いた骨太の面を併せ持ち、双子の弟である風見玄吉、永吉をはじめとする若手やベテラン座員をしっかりとまとめている注目の座長〉とある。また、キャッチフレーズは〈若き座長が大奮闘 風美涼太郎座長が、芝居に、舞踊に、体当たりの熱い舞台を見せてくれます。かわいい双子の活躍も見逃せません〉であった。芝居の外題は、昼の部「身代わり三度笠」、夜の部「菊五郎変化」。友情出演・大門力也。女優・藤経子、藤千和子。この劇団の舞台は、ほぼ1年前、同じ劇場で見聞済み。芝居、舞踊ショーは「水準並み」、どのような内容であったか思い出せない。しかし、太夫元・風美翔蔵の「口上」は天下一品であった。その「語り口」、客との「間のとり方」は絶妙で、当世のテレビ芸人など足元にも及ばない、斯界では、鹿島順一、見海堂俊と「肩を並べる」実力である。そう感じているのは私だけかと思っていたが、今日の口上によれば、なんと「口上の隠れファン」がおり、芝居、舞踊はともかく、まずは彼の「口上」を楽しみに来場する客筋が(少数ながら)存在するということで、なるほど、誰しも感じるところは同じなどと、妙に納得した次第である。例えば、どんなところが「天下一品」なのか。まずは、型通り、劇団グッズを紹介。座長が登場しているビデオについて、〈先日行われた座長大会の舞台が収録されております。そうそうたるメンバーで、まずは風美涼太郎、瀬川伸太郎、澤村章太郎、旗丈司、龍千明・・・、松平健、杉良太郎、北島三郎・・・〉、いつのまのか、登場してもいない役者名を口走って、平然としている。そのあと、お茶、ハンカチ、貯金箱などの値段を紹介、「これらの品物をお買い上げ頂いた場合、その売上げの一部は、目の不自由な方、耳の不自由な方、寝たきりの方などなどを支援している福祉団体に寄付させていただくことはありません。すべてを劇団の収入とさせていただきます。何しろ、去年買った車のローンがまだ終わってないもんで・・・」というあたりが、何とも正直で、すがすがしい。聞く人にとっては「不見識」と思うかも知れない。しかし、「寄付できる状態なら、もちろん寄付します。でも、今はまだ、その余裕がないのです」という思いが察しられ、私は許容できる。事実、客の中には車椅子、杖を使って来場した高齢者が少なくなかった。彼らに素晴らしい舞台をプレゼント、「元気」と「生きる喜び」を「寄付」していることは間違いないのだから・・・。
 さて、眼目の「芝居」と「唄と踊りのグランドショー」。1年前に比べて、役者の「実力」は着実に向上している。特に、風美永吉・玄吉の双子兄弟はまだ14歳、懸命に努力・精進して、舞台姿が、「絵になりつつある」。永吉は「女形」「二枚目」、玄吉は「立ち役」「三枚目」という二枚看板を目指して頑張ってもらいたい。座長は、相変わらずの「芸達者」、客との「呼吸」もピッタリで、「二枚目半」の芸風に磨きが掛かれば、太夫元の「口上」を超えることができるのではないか。女優・藤経子、藤千和子の「実力」は折り紙付き、大衆演劇の伝統を踏まえた芸風は、しっかりと「脇を固めている」。
 今日一番の「掘り出し物」は、若手・風美登志也の歌唱「白雲の城」であった。観客の全員が「拍手」(そんなことはめったにない)。出来栄えは、氷川きよしをはるかに超えていたからである。
(2008.10.20)