梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団暁」(座長・三咲夏樹、三咲春樹)

【劇団暁】(座長・三咲夏樹、三咲春樹)〈平成26年4月公演・小岩湯宴ランド〉
この劇団の舞台は初見聞である。昼の部、芝居の外題は「子別れ傘」。筋書きは、大衆演劇の定番。7年前、飢饉に苦しんでいた村を救うため、心ならずも蔵破りの罪を犯して島送りとなった三造(座長・三咲春樹)が、女房、子どもに「一目会いたい」と島抜けをして帰って来た。しかし、家には誰の人影もなく、叔母(三咲さつき)の家を訪ねてみれば、恋女房・千草(座長・三咲夏樹)は、「二度の亭主」を持った由、一粒種の三吉(三咲憧?)も新しい父親を「ちゃん」と慕っている様子で、三造の帰る場所はなかった。村では「三造塚」も建てられ、すでに死者として祭られていたのである。まさに「世は無常(無情)」、どうしようもない「やるせなさ」を座長・三咲春樹は、精一杯、懸命に描出しようとしていた、と私は思う。また、千草を演じた座長・三咲夏樹の「女形」の風情も絶品、「あなたが島で死んだと聞き、三吉のために二度の亭主を持ちました」という釈明にも、ことのほか説得力があった。加えて、二度目の亭主(飛竜貴)は十手持ち、本来なら、三造を捕縛しなければならない立場だが、「早くお逃げなせえ、三造塚あたりが手薄・・・」と暗示して解放する。折からの降雨を知るや、一粒種の三吉に「傘」と酒を持たせ、「いいか三吉、あのおじちゃんにお前の顔をよーく見てもらえ、そしてお前もおじちゃんの顔をよーく見てくるんだぞ」といった「温情」が滲み出て、たいそう見応えのある舞台模様であった。しかし、筋書きは、あくまでも「不条理」、三造は「三造塚」まで逃げ延びたが、そこで追ってきたヤクザと切り結び、憤死する、という結末で幕は下りた。兄弟座長を筆頭に、役者ひとりひとりが誠実に舞台を務めようとする態度が清々しかった。夜の部、芝居の外題は「甚太郎草子」。この演目も大衆演劇の定番。百姓を嫌ってヤクザに憧れ村を出て行った甚太郎(座長・三咲春樹)、後悔して「堅気になろう」と改心、村に帰り叔父(三咲さつき)のもとで暮らし始めた。叔父には一人娘(三咲愛羅)がいたが、早くも甚太郎に焦がれた様子、「おとっつあん、あたし甚太郎さんのお嫁さんになりたい」、「そうか、お前も年頃だ。いくつになった?」「12歳・・」、野良仕事から帰ってきた甚太郎、叔父からの祝言話を聞かされて、一人娘の顔をまじまじと見つめ、「そうですかい、私のお嫁さんになりたい・・、でも同じ顔の人間がまた一人増えるだけだ」、といったやりとりが何とも可笑しかった。言うまでもなく、三咲愛羅は三咲春樹の愛娘、親子で祝言をあげるなんて、といった「楽屋ネタ」で、この芝居は展開する。やがて、股旅姿の長脇差し(座長・三咲夏樹)が颯爽と登場、甚太郎に(ヤクザ時代の)「おとしまえ」をつけに来たのだが、堅気姿の甚太郎を見て刃を交わすことはあきらめたか・・・。真の仇役は三枚目・蝮の権九郎親分(飛竜貴)、キティちゃんの衣装に身を固め、一人娘に「言い寄る」がケンモホロロ、子分たち(三咲大樹、三咲暁人、三咲章人?)に「力づく」で拉致させたものの、救出にきた甚太郎と助っ人の長脇差しに(あえなく)成敗されて舞台は大団円となった。昼の部と違ってこの芝居は喜劇。ここでも座員一同は「大きく脱線することなく」それぞれの役割を誠実に果たしていた。この劇団の根城は野州・船生かぶき村、初代座長・三咲てつやが20年前(平成6年)に築いた「芝居茶屋」である。今回は、その若手兄弟座長が、一家連中を引き連れての出張公演という趣で、兄座長・三咲夏樹の長男・暁人、次男・隼人、三男・龍人、四男・鷹人、長女・舞花、弟座長・三咲春樹の長男・憧、長女・愛羅、次女・良羅、といった「花形」「子役」の面々が、賑々しく舞台を彩る。舞踊ショーで見せた、兄座長(三咲夏樹)の「女形」は絶品だが、その長男・暁人の舞姿もすこぶる魅力的で、「女形」はもとより「立ち役」でも、えもいわれぬ「色香」を漂わせていた。将来が楽しみな逸材である、と私は思った。閉演後、売り出された初代座長・三咲てつやの著書「桟敷は皆んなの楽天地」(三咲プロダクション・平成25年)を購入、《前口上》を開けば、その一節に「文法が未熟で、然も文章が幼稚。その上、構成は滅茶苦茶の、この拙い本を読んでいる皆さんは災難です。でも、折角買って頂いた本ですので最後まで読んでくださいね」とある。加えて、本の帯が表紙から裏表紙にかけて「刷り込まれている」といった代物で、まさに至れりつくせり、著者の謙虚・誠実な姿勢に脱帽する他はなかった。なるほど、さればこそ今日の舞台は、初代座長・三咲てつやの薫陶の賜であったことを心底から納得、大きな元気を頂いて帰路に就くことができたのであった。感謝。
(2014.4.10)