梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「新星劇豊島屋虎太朗劇団】(座長・豊島屋虎太朗)

【新星劇豊島屋虎太朗劇団】(座長・豊島屋虎太朗)〈平成22年8月公演・大阪梅南座〉
座長の屋号は「てしまや」と読む。インターネットで「新星劇」と検索すると「てしまや虎太朗」というページが出てきた。その「座員連名」には、座長・新導かずや、とある。ではいったい、てしまや虎太朗と新導かずやとの関係は?「何が何だかわからない」「誰が誰だかわからない」うちに、ミニショーは終了。幕間で、劇場名物の「おでんおまかせセット」を注文、缶ビールを飲みながら芝居の開幕を待った。まだ食べ終わらないうちに、開幕。登場人物は客席から登場、私の脇を通り過ぎながら、「あ、おでんを食べている。おいしそうだなあ・・・」と言いつつ舞台へ。外題は「月下の剣」。土地の親分・なめくりの権九郎が女房にしようと惚れ込んだ相手は、すでに子(乳飲み子)持ちの人妻、しかもその夫は侍で、仇討ちに狙われる身、親分、そんなことはお構いなしに、邪魔な夫を「殺っておくんなさい」と用心棒(座長・豊島屋虎太朗)に依頼した。この用心棒、実は夫に父を殺されていた。かくて仇討ちの場面となるが、用心棒、相手が妻子ある身とわかって諦める。加えて、武士という身分も捨て、独居老人・蕎麦屋(宴まこと)の養子になるというお話。そういえば以前、「劇団芸昇」(座長・みやま昇吾)の同じ舞台を見聞済みであった。そのうえ、なんとこの劇団は「新星劇・大導寺はじめ劇団」の《なれのはて》であったのだ。といえば大変申し訳ないことは百も承知のことだが、あの名優・大導寺はじめが、こんなところで(と言っては、劇場関係者に甚だ失礼であることも承知のうえで敢えて申し上げます。お許しください)、こんな芝居をしていようとは・・・。「あ、おでんを食べている、おいしそうだなあ・・・」と言いながら舞台に上がったのは、なめくりの権九郎役、さすれば、その役者は名優・大導寺はじめを措いて他にないではないか。なるほど、「達者な芸」ではあったが、初々しい若手の息吹に埋もれがち、大ベテラン・宴まことと共々に往時の「面影」は薄れがちであった。「身をやつす」という風情を絵に描いたような舞台で、まさに大衆演劇の「侘びしさ」がひしひしと感じられる。世は諸行無常、あらためて私自身の姿を鏡に映したような感動(寂寥感)をおぼえながら帰路に就いたのであった。
(2010.8.10)