梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団富士川」(座長・富士川竜二)

【劇団富士川】(座長・富士川竜二)〈平成22年4月公演・大宮健康センター湯の郷〉
劇場案内パンフレットには以下のように書かれている。〈劇団富士川 座長・富士川竜二 生年月日(秘密)出身地:福岡県 血液型:A型 抱き子より舞台に立ち6歳より学業に専念。17歳でいくつかの仕事を、経験しのち、再び役者へ。劇団名と芸名は「富士山のように大きな存在に」との願いを込め、自ら命名。優美な女形に人気が集まっている。モットーは「妥協せず、お客様に感動を伝えること」お客様から絶賛される、座長の女形と若い座員のパワーがかみ合い最高の舞台を作り上げている。義理と人情の昔ながらのお芝居を中心に「舞台に出たら一生懸命」を劇団モットーとしている。艶やかな座長の女形必見!です〉。劇団員は、太夫元・若林良太郎、二代目・富士川大輔、剣豪・富士川佳生、花形・富士川健二、富士川てまり、富士川奈々、座員・富士川しんや、富士川すすむ、富士川太一、富士川星矢、若松美智子、若菜かほる、弓ひとみ、子役・りく丸、他衣装、照明といった面々である。この劇場は、「火曜・金曜はお芝居 昼夜2回公演」ということで、昼「日本の夜明け」・夜「黒駒ノ勝蔵」という外題が張り出されていた。したがって夜の部「黒駒ノ勝蔵」が始まると思いきや、なんと場内アナウンスは「夜の部お芝居、・・・時代人情劇《姉の情》の開演です!」ときた。なんだ、それでは約束が違うじゃないかと思ったが、客筋はおとなしく疑問をはさまない。なるほど、こっちの方が良いという訳か、と気を取り直して舞台に見入る。だがしかし、残念ながら、結果は「期待はずれ」であった。その理由、第一に座長が登場しなかった。第二に、役者の実力はまだ「発展途上」、わずかに大ベテラン女優の若松美智子が舞台を引き締めていたが、見るべきは彼女の「セリフ回し」一つといった演出で、眼目の「姉の情け」(姉妹愛)描出は不発に終わった、と私は思う。子宝に恵まれず夫婦の第一子は「捨て子」、ようやく第二子が誕生したが、なぜか「ひねくれて」成長、あげくのはてには家出。五年後、旅役者の一員に納まったが、一座の金を持ち出して遁走、実家に逃げ帰ってきた。追っ手に捕まりそうになったとき「姉」がその身代わりを引き受ける、その場で「妹」も改心、という筋書の人情芝居で、台本に申し分はないのだが・・・。
 今日の収穫は、舞踊ショー。花形・富士川てまりの「お吉物語」、まだ眼目の「あわれさ」「むなしさ」「さびしさ」を描出するには不十分であったが、色香、艶やかさにおいては一番の人気芸妓の風情を見事に演出していた。加えて、子役・りく丸の「立ち役」舞踊、大人顔負けの表情、所作が際だっており、まさに「お見事!」。次回は、ぜひとも座長の「妥協せず、お客様に感動を伝える」舞台を見聞したいと念じつつ、帰路についた次第である。
(2010.4.15)