梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「幼児の言語発達」(村田孝次著・培風館・1968年)抄読・5

■その後の音声の変化
《叫喚音声の変化》
【要約】
 単調だった初期叫喚は、まもなく変化を示しはじめる。それは発声の持続時間・リズム・強さ・高さ・音色などの上にあらわれる。ビューラー(Buher,C,1930)によると、少なくとも0歳3ヶ月にはこれがはっきりしてくる。おおまかにいえば、常習的叫喚と意味的叫喚とが区別される。前者は一様性があって強く、休止が明瞭で、身体運動の随伴は顕著ではない。これに対して、意味的叫喚は情動や欲求の性質とその強さに対する発声であり、その音声から子どものそのときの情動や欲求をある程度推定することができる。空腹時に生じる叫喚は連続的で低く、痛みを生じる叫喚は金切声で長く続く。
 声の高さの調節は0歳2ヶ月~0歳3ヶ月に現れはじめる。この調節は子どもが自分の耳で自分の発した音声を聞き、これによって発声を調節するということ(聴覚的フィードバック)である。なぜならば、喉頭発声筋にはその筋の活動を感知する固有受容器はほとんどなく、発声筋の活動がフィードバックされて声の高さの調節をすることがないからである。自己の発声活動が、初期から聴覚と密接に関係しているということは、他者の音声と自己の音声との相同性を形成させ、ひいては言語機能を形成するための、重要な機会を作っているといえるであろう。これは、他の筋活動と感覚との間にはみられないことである。
【感想】
 自閉症児の「言語発達」について考える場合、この「叫喚音声の分化」という現象は、最も重要だ思われる。常習的叫喚は、日常的に生じる空腹や不快感を知らせる「合図」としての役割を果たし、意味的叫喚は、突発的な事態(大きな音、痛みなど)に対する「情動の表現」である。乳児の生活は「安定」と「不安定」の繰り返しであり、生命の維持のためには、どちらも不可欠である。著者は、常習的叫喚が「聴覚的フィードバック」によって、発声を調節できるようになり、意味的叫喚に変化していくと述べている。もし、自閉症児の「聴覚」に「過敏すぎる」傾向があったとすれば、①聞くことが不快である(不安定になる)、②自分の声を聞く余裕がない、②他者の音声と自己の音声の相同性(似ている共通点)を比べられない、といった支障が生じ、常習的叫喚も、意味的叫喚も活発にならないのではないか、と考えられる。乳児期「ねてばかりいた」「おとなしかった」「手がかからなかった」「育てやすかった」とすれば、その分だけ発声の機会が乏しくなり、「言語機能を形成するための、重要な機会」が失われていく、ということがわかった。(2018.3.3)