梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「幼児の言語発達」(村田孝次著・培風館・1968年)抄読・60

《代表過程と条件づけ》
【要約】
 二つの事項間の任意的な関係は、言語的代表過程に限らず、非言語的過程にも存在する。接近連合、あるいは条件づけによって、連合される二つの事項の間に有縁性があってもなくても、両者間に結びつきが生じる。
 連合における結合は、一つ一つが孤立しているが、言語的代表過程では能記は記号的体系性によって互いに密接に関連し、その結果としてすべての所記を体系づけ、範疇づける。


《代表過程と対人接触》
 代表過程が行為的なものから有縁的なものへと発展し、さらに任意的な関係を形成するということは、人間に共通の、人間だけのもつ特徴である。しかしこれは子どもの単独な外界への働きかけによるものではない。彼の“外界”で大きな力をもつものは人間(とくに彼の養育者)である。 
 広く動物種を見渡すとき、生まれたてからかなりの程度自立生活のできる動物がある。哺乳類でいえば、有蹄類(ヒツジ・ヤギ・シカ・ウシなど)がこれである。こうした動物では、親子の結びつきは、子どもの側からの働きかけが大いに役立っている。しかし、人間のように、生まれたばかりはまったく能なしで、親によって生命の維持ができる生き物では、親の側から子どもに向かってなされる働きかけが親子関係をつくりあげ、さたに生活にとって必要な認知や行為を形成するために必要不可決である(Slukin,1964)。
 育児者は子どもの反応に応じるばかりでなく、その反応を促し、彼の役に立つ情報を与えるなど、積極的に子どもに働きかける。この影響力は、代表機能の発達を大きく左右するに違いない。
 代表過程は育児者の働きかけにより、早くから範疇化をふくむことになる。自然的有縁性が支配的な時期だと明確にいう期間を見出すことが困難なほどに、成人による範疇化の働きかけ、とくに言語的なそれが早期から行われる。範疇化は子どもが言語の直接の影響を受ける以前から生じているが、育児者はやがて、子どもの非言語的範疇化に対して、言語的に干渉をはじめ、子どもの形成した非言語的な範疇を言語的に再範疇化させるよう、強く促すのである。
 この種の干渉の必要性は明白である。人間の社会生活にとって有用な範疇の多くは、自然なそれではない。自然的有縁性に基づく非言語的範疇化は、真の意味で体系化されたものではない。それは相互に矛盾し、また重複するものをふくむばかりではなく、不明瞭であり、不安定であり、十分に抽象的な水準に達することを許さないものである。


【感想】
 ここでは、子どもの代表過程(代表機能)が、大人(育児者)からの働きかけ(干渉)によって、自然的有縁的なものから任意的、言語的範疇化に発達していくことが述べられている。育児者の働きかけは「不可欠」であると断定しているが、自閉症児の言語発達について考える場合、《育児者はどのような働きかけをしたか》ということが、(親の感想としてではなく)「事実として」究明されなければならない、と私は思う。
 ここでいう、自然的有縁的範疇化とは、たとえば犬を「ワンワン」とよぶことであり、任意的、言語的範疇化とは、犬を「イヌ」とか「ドウブツ」とか「ホニュウルイ」とかとよぶことであろう。育児者にとってまず「ワンワン」という範疇化を教え、その代表過程を十分に経験した後で、タイミングを見計らって「イヌ」という範疇化(言語)もあることを教えることが大切である、と私は思う。もし、自閉症児の代表過程が、育児者の干渉なしに「子どもの単独な外界への働きかけによるもの」だけだったとすれば、能記ー所記の関係は理解しているのに「使えない」(対話が成立しない)といった問題が生じてもおかしくない。(2018.8.2)