梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「愛着障害」(岡田尊司・光文社新書・2011年)要約・12

《第4章 愛着スタイルを見分ける》
【愛着スタイルが対人関係から健康まで左右する】
・それぞれの愛着スタイルは、「作業モデル」と呼ばれる行動のプログラムをもっている。それは、幼いころからこれまでの人生のなかで作り上げられてきた、行動や反応の鋳型であり判断基準である。
・このプログラムの特異な点は、心理学的な解釈や行動選択に関わるだけでなく、ストレスに対する耐性のような生理学的な反応までも左右し、健康や寿命にも大きく影響する。・愛着障害は、不安定な愛着スタイルを抱えた人の問題であるが、愛着スタイルは、すべての人が関係する問題である。
【大人の愛着スタイルを診断する】
・大人の愛着スタイルの判定には、二つの方法が行われている。一つは、成人愛着面接である。
・もう一つは、質問紙による検査で「親密な対人関係尺度」と呼ばれるものである。愛着不安と愛着回避のスコアが、それぞれ高いか低いかによって、四つのカテゴリーに分類される。いずれも低い場合には「安定型」、愛着不安が強く愛着回避が弱い場合は「不安型」、愛着回避が強く愛着不安が弱い場合は「回避型」、両方とも強い場合は「恐れ・回避型」と判定される。
【ストレスが高まったとき、人を求めますか?】
・不安型の人は、愛着行動が過剰に増加する。
・回避型の人は、ほとんど増加しないか、減ってしまうこともある。
・安定型の人は、ほどよく増加する。
【つらい体験をよく思い出しますか?】
・不安型の人は、(怒りや不安という感情を伴って)すぐに思い出す。楽しい経験は思い出せない。
・回避型の人は、思い出すのに時間がかかる。(傷ついた体験を極力避けようとする。)
・安定型の人は、不安型と回避型の中間である。
【愛する人のために犠牲になれますか?】
〈ある研究では〉
・安定型の人は、自分が犠牲になってもいいと答える傾向がみられた。
・不安定型の人は、嫌がったり、躊躇ったりする気持ちが強くみられた。しかし、自分の価値観や信念のためなら死んでもいいと答えた人が多かった。
【愛着スタイルと仕事ぶり】
・安定型の人は、仕事に対して積極的で問題もなく、満足度も高い。仕事に対人関係の問題をもちこまない。
・不安型の人は、仕事においても愛着と関連した行動が多く、そのことに大きな関心とエネルギーが割かれる。仕事上の成功、失敗は、単に仕事の問題ではなく、自分が受けいれられるか、拒否されるかという対人関係の問題にすり替わりやすい。肝心な仕事自体がおろそかになることも起きる。仕事をうまくやりこなせているかどうかに自信がもてない。平均よりも給与が低い傾向がみられる。
・回避型の人は、仕事上の問題よりも、同僚との軋轢が多く、孤立を招きやすい。同僚に対して関心が乏しかったり協調性に欠けるためである。
・不安定型の人は、仕事の満足度が低く、仕事のストレスや燃え尽きも多い。家族との関係が不安定で、足を引っ張られてしまうことが起こりやすい。
【対人関係か仕事か】
・不安型の人の関心は、何をおいても対人関係に向けられる。人から承認や安心を得ることが、きわめて重要だからである。
・回避型の人は、対人関係よりも仕事や勉強や趣味に重きをおく。対人関係のわずらわしさを避けるために、仕事や勉強に逃げ場所を求めている面もある。世間に向けての自立の体裁を整え、社会的な非難や家族からの要求を回避するために利用している面が強かったりする。仕事や社交、レジャーなどをバランスよくとるのも苦手で、仕事に偏りがちな傾向もみられる。
【愛着スタイルと攻撃性】
・回避型の子どもは、敵意や攻撃行動が多いが、若者や大人においても当てはまる。
・不安型の子どもは、母親に対する強い依存とともに、抵抗や攻撃が特徴的に認められる。欲求不満からくる怒りを母親にぶつけるのである。こうした傾向は、若者や大人の不安型の人にも認められる。彼らの攻撃性は、親やパートナー、子どもといった身内に向けられる。(家庭内暴力)
・不安型の人では、パートナーからの支えを必要としている間は怒りが抑制されるが、支えが必要なくなると、怒りが爆発する。
【健康管理に気を配る方ですか?】
・安定型の人は、健康を維持するために、運動をしたり、食事に気を使ったりということに熱心に取り組む傾向がみられる。
・不安型の人は、きちんとした健康管理を行っていない傾向がみられる。痛みに弱く、不調や苦痛を感じやすい。些細なことでも大騒ぎする。
・回避型の人は、健康管理に無頓着な傾向がみられる。自分の症状やストレスについてあまり自覚がないので、病気が進んで初めて気がつくということになりがちである。身体疾患の罹患率が高い傾向がみられる。(例;潰瘍性大腸炎)
・恐れ・回避型の人は、病院に行くのを億劫がり、治療をちゃんと受けない傾向がある。
【喪の作業の仕方がちがう】
・安定型の人では、故人への愛着を保ちつつ、それを緩やかに薄れさせていくことができる。
・不安型の人は、喪の作業が遷延化して長期化しやすい。悲しみや喪失感はふつうの人よりも大きい。存命中とは対照的に、故人を理想化して回想する傾向がみられた。
・回避型の人は、喪の作業そのものが欠如する傾向がみられる。涙も流さず、割と平然としていることもある。しかし、体の変調となって表れることが多い。故人のことを否定的に語る傾向がみられる。
・恐れ・回避型の人は、喪の作業が困難で不安定なものになりやすい。不安や抑うつ、悲嘆反応が強く表れ、心的外傷様の反応もみられる。アルコール依存に逃避するということも多い。
【愛着スタイルは死の恐怖さえも左右する】
・不安型の人は、死の恐怖や不安を抱きやすく、死について考えることも多い。死を恐れる理由として「私が死んだら、私のことは忘れられてしまう」「死んだらあの人にもう会えない」というように、死を対人関係の延長のなかで位置づける。
・回避型の人は、死に対する恐怖が小さい傾向がある。死を恐れる理由として「死んだらどうなるかわからない」というように、自分の人生を自分でコントロールできないので厄介だと感じるのである。
・安定型の人は、死を肯定的、建設的に乗り越えようとする。子どもや次の世代に関心や愛情を注いだり、創造的な活動や社会貢献に努めようとする。


【成人愛着面接では、親との関係に焦点を当てる】
・成人愛着面接の特徴は、親(養育者)という愛着対象との関係に焦点を当て、それが心のなかで、どのように整理されているかをみる点である。
【成人愛着検査(自己診断用】
①あなたの親(母親、父親、それ以外の養育者)との関係で思い浮かぶ形容詞を、五つ答えてください。■母親 ■父親 ■その他
②いま、答えた五つの形容詞の一つ一つについて、それを具体的に表す子ども時代の経験を答えてください。
③あなたが子どものときに、困ったり、病気になったり、怪我をしたときに、親はどんな反応をしましたか。
④もし、あなたが、子どものころ、親(養育者)と離ればなれになったり、死別した経験があれば、そのことをあなたはどんなふうにかんじていましたか。
⑤もし、あなたが、親(養育者)との関係で、心が傷つくような経験をしたとすると、それはどんなことですか。
⑥親(養育者)に対するあなたの気持ちが変化したということはありますか。あるとすれば、どんな変化ですか。
⑦親(養育者)に対するあなたの現在の気持ちは、どんなものですか。
《検査結果をどのように判定するか》
・この検査の眼目とするところは、被験者が子ども時代に、親(養育者)との関係で、どの程度一貫性のある心理的体験をしたかをみることである。その程度によって、三つのタイプのどれにあてはまるかを判定する。⑴自律型 ⑵愛着軽視型 ⑶とらわれ型
・自律型は、①で答えたそれぞれの形容詞について、それが表す具体的な体験を豊かに思い出して語ることができる。子ども時代の体験に対して一貫した態度を示し、過去や現在の親との関係について客観的に振り返ることもできる。ネガティブな体験に対しても、共感や許しの気持ちを示し、親に対して肯定的に語る。
・愛着軽視型は、一応ポジティブな形容詞で表現するが、それを具体的に表す経験について、生き生きと思い出すことができない。幼少期の記憶が乏しい。親(養育者)との関係については、大して重要なことではないという態度を示す。
・とらわれ型は、子ども時代や親(養育者)との関係について客観的に振り返ることが困難である。今なお恨みや怒りを引きずっており、質問に対しても曖昧な答えしか返さなかったり、質問されることで不機嫌になったりする。
・以上の三つのタイプに当てはめるのが難しい場合は、⑷分類不能型とする。
・分類不能型も、自律型ではないという意味で、判定の意義がある。克服の途上にある場合、タイプの混在が起きて分類不能型を呈することがある。複数の親、養育者に対して、それぞれタイプが異なるという場合もある。
・もう一つチェックすべき点は、④と⑤の質問、親(養育者)との離別(死別)や外傷的体験についての質問に対する反応である。この質問に対して、混乱や沈黙、拒否的な反応を示した場合は、⑸未解決型と判定する。未解決型は、これまでの四つのタイプのどれかに重複して診断される。
【子ども時代の愛着パターンとの関係】
・自律型の人は、安定型の愛着スタイルに相当し、愛着の問題はおおむね認められない。
・愛着軽視型の人は、回避型に相当する。脱愛着の傾向を示し、過去の傷つき体験を記憶から切り離し、蓋をすることで、心の安定を保っていると言える。人に頼らず、自分の力だけを当てにし、独立独歩型、一匹狼型のライフスタイルをとりやすい。親密な関係を避けたり、人を信頼しなかったり、権力や業績や金の力といったものを信奉することで、自分の価値を守ろうとするのである。
・とらわれ型は、不安型に相当し、子どもの抵抗/両価型に対応する。親(養育者)との傷ついた関係が、今も生々しく心を捉えており、親を求める気持ちと憎んだり拒否したりする気持ちとが葛藤している状態にある。傷を受け止め。乗り越えるということが、まだできていない。親以外の対人関係においてもアンビバレントな感情にとらわれたり、過剰に傷ついたりして、不安定になりやすい。
・幼いころの混乱型は、その後の対応次第で、どの愛着スタイルにも分化し得るが、とらわれ型になることが多い。虐待や対象喪失などによる心の傷が深いと未解決型の愛着スタイルも合併しやすい。両者が合併したケースは、大部分、境界性パーソナリティ障害や、その状態になりやすい傾向を抱えている。愛する人との別離といった愛着不安が強まる状況で、再び混乱を呈しやすい。


【感想】
・この章では、「大人の愛着スタイル」を診断する方法について、述べられている。その一つは、「親密な対人関係体験尺度」と呼ばれる質問紙による検査である。「1 積極的に新しいことをしたり、新しい場所に出かけたり、新しい人に会ったりする方ですか」という質問に①はい、②いいえ、③どちらとも言えない、と答える形で、合計45の質問が設定されている。その結果を集計すると、被験者の愛着スタイルが「安定型」「不安型」「回避型」「恐れ/回避型」に分類される仕組みになっている。私は、これまで自分自身をはじめ数人に実施したが、その結果は極めて明確に出たように思う。ちなみに、私自身の愛着スタイルは「回避ー安定型」(愛着回避が強いが、ある程度適応力があるタイプ)であった。
 もう一つは「成人愛着面接」と呼ばれる面接検査である。この検査は、相手との信頼関係がよほど親密にならないと、実施が難しいだろう。質問の内容は、プライバシーや外傷的体験にも触れており、問題の核心を直視せざるを得なくなるからである。日常的な面談(雑談)のなかで、折に触れてそれとなく話題にしながら、時間をかけて答えてもらうような配慮が必要だと思った。
 いずれにせよ、その人の「愛着スタイル」を究明することは有効であることに変わりはなく、その結果が「愛着障害の克服」につながることは間違いない、と私は確信している。期待を込めて、次を読み進めたい。(2015.9.29)