梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「幼児の言語発達」(村田孝次著・培風館・1968年)抄読・2

1 乳児初期の発声
【要約】
 ‘うぶ声’にはじまる人間の発声は日々急速に変容して、まもなく明白な技能的統制が生じてくる。これと平行して、音声に‘意味’も感じられるようになる。これらの変化は明らかに人間の高次神経機構の整備によるものである。しかし、このような初期の段階においてさえ、発声行動は周囲からの影響を受けていると思われる。そのうち、とりわけ重要なものは対人接触(主として母親)の影響であることはいうまでもない。
■新生児音声の性質
《うぶ声》 
 出生時の発声・・うぶ声・・は、呼吸運動に伴う自動的な現象である。それは、生命維持のための呼吸活動に並行して生じる。うぶ声をおこさせる内的あるいは外的な刺激があるにちがいない。しかしそうした刺激がうぶ声では、呼吸をおこさせる刺激と完全に一致し、区別することができないのである。呼吸ー発生運動から、呼吸をおこさせる刺激と発声をおこさせる刺激とが分化していくとき、発声活動は漸次独自の型をもち、単調性を破っていく。これが新生児における発声の発達過程である。このような発達的変化は生後第1日からはじまる。


【感想】
 「うぶ声」とは、出生直後に新生児が発する「泣き声」である。それは肺呼吸が始まったという証であり、生命維持にとってきわめて重要な指標である。もし「うぶ声」が無ければ、放置せず、医師は必ず必要な措置を講じるはずである。 
 「うぶ声」は呼吸に並行して生じるので、当初は「うぶ声」と「呼吸」を区別することができないが、次第に「泣いている時間」「眠っている時間」「目を覚ましている時間」の違い(区別)が生まれ、単調な呼吸活動と独自な発声活動に分化していく、ということである。著者は「このような初期の段階においてさえ、発声行動は周囲からの影響を受けていると思われる。そのうち、とりわけ重要なものは対人接触(主として母親)の影響であることはいうまでもない」と述べている。新生児の発声活動に、主として母親の「対人接触」がきわめて重要な影響を与えるという指摘が興味深かった。
(2018.3.1)