梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

『「自閉」をひらく 母子関係の発達障害と感覚統合訓練』(つくも幼児教室編・風媒社・1980年)精読・38

B.圧覚
・圧覚刺激は、子どもの身体をおしたりもんだりして与えられる。いわゆる指圧やマッサージなどと同じような活動と考えてよい。
・触覚刺激(こすること)は興奮を高める効果を持つのにたいして、圧覚刺激(おすこと)は興奮を抑える働きがあるといわれる。したがって、圧覚刺激はとくに多動な子どもの場合に奨められる。こすったり触ったりすることと、押したりもんだりすることは、異なる刺激を与えることなのだから、刺激の与え方をはっきり区別することが必要である。同じ“抱く”という行為でも、そっと抱くことと、ぎゅっと抱きしめることとは程度の違いではなく、まったく異質な刺激なのである。
・どこを押すかということは、子どもの好みに従えばよいのだが、指圧の心得のある人ならば、適当なつぼを探してみることもできるであろう。
◆圧覚刺激の活動例
①おしくらまんじゅう。 ②身体のあちこちをもむ。③ぎゅっと抱きしめる。
【感想】
・「ぎゅっと抱きしめられる」感覚は、愛着心、安心感を育て、心の安定を図るうえで、必要不可欠であると思われる。3歳時に脳損傷と見なされ、6歳時に自閉症と診断されたテンプル・グランディン博士は、牛樋からヒントを得て「締めつけ機」を考案した。また、アメリカの精神科医、マーサ・G・ウェルチ博士も「抱きしめ法」を提唱し、〈「抱きしめ」は子どもに自閉からの脱出路を与える〉と述べている。(『自閉症 治癒への道(付録1)』(田口恒夫訳・新書館・1987年)。私はその中で、ウェルチ博士が最後に記している以下の件(くだり)がたいそう興味深かった。「治療で最も重要な面は、母親と父親に治療への参加を動機づけることである。抱きしめを受けた子どもはすべて積極的な反応を示した。子どもはその気になっている場合でも必ずしもすべての母親がすすんでやろうとするとはかぎらなかった」。
 要するに、抱きしめられた子どもは《すべて》が(もっと、だっこしてほしいという)積極的な反応を示したのに、母親の方は必ずしも《すすんでやろうとはしなかった》ということである。そこには明らかに「気持ちのずれ」が生じている。母親はなぜすすんでやろうとしないのだろうか。①体力が続かない、②抱きしめることが苦痛である、③子どもが抵抗するので強制できない、④子どもを虐待しているような気持ちになる、⑤周囲に対して恥ずかしい気持ちになる、等々、まだ他にあるかもしれない。いずれにしても、子どもの気持ちよりも、自分の気持ちを優先していることが共通している。しかし、まず子どもを「自閉から脱出させる」ことを最優先すべきではないだろうか。問題は、子どもが嫌がって抵抗する場合であろう。著者は一貫して「嫌がる場合は強制するべきではない」という立場であり、ウェルチ博士の方法とは異なるかもしれない。しかし、「嫌がるからそれで終わり」ということではない。次の機会を待ち、息の長い取り組みを続けることが大切である、と私は思った。
(2016.5.9)