梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「愛着障害」(岡田尊司・光文社新書・2011年)要約・2

《第1章 愛着障害と愛着スタイル》
【あなたの行動を支配する愛着スタイル】
・愛着スタイルは、その人の根底で、対人関係だけでなく、感情や認知、行動に幅広く影響していることがわかってきた。パーソナリティを形造る重要なベースとなっているのである。
・安定した愛着スタイルのもち主は。相手が助けになってくれると信じきっているので、実際にすぐに助けや慰めを求め。それを得ることができる。しかし、不安定な愛着スタイルの人は、そんなことをすると拒絶されるのではないかと不安になって、助けを求めることをためらったり、最初から助けを求めなかったりする。あるいは、助けを求めても、求め方がぎこちないため、相手を苛立たせてしまったり、肝心なことを切りだせなかったりして、結局、効果的に相手から助力を得ることができにくい。
・その人の愛着スタイルというのは、母親との関わりを出発点として、その人にとって重要な他者との関係のなかで、長い年月をかけて培われていく。
【抱っこからすべては始まる】
・人は、生まれるとすぐに母親に抱きつき、つかまろうとする。逆に言えば、育っていくためには、つかまり、体に触れ。安らうことができる存在が必要なのである。
・抱っこをし、体を接触させることは、子どもの安心の原点であり、愛着もそこから育っていく。抱っこをすることで、子どもから母親に対する愛着が生まれるだけでなく、母親から子どもに対する愛着も強化されていく。
・子どもが泣くと、すぐに抱っこする母親の場合、子どもとの愛着が安定しやすいが、放っておいても平気な母親では、不安定な愛着になりやすい。
・抱っこという実に原始的な行為が、子どもが健全な成長を遂げるうえで非常に重要なのである。それは、子どもに心理的な影響だけでなく、生理的な影響さえ及ぼす。子どもの成長を促す成長ホルモンや神経成長因子、免疫力を高める物質、さらには、心の安定に寄与する神経ホルモンや神経伝達物質の分泌を活発にするのである。
・抱っこは、スキンシップという面と、「支え、守る」という面が合わさった行動である。よく抱っこされた子は、甘えん坊で一見弱々しく見えて、実のところ、強くたくましく育つ。その影響は、大人になってからも持続するほどである。
【特別に選ばれた存在との絆】
・(愛着における不可欠な特性の一つは)愛着の対象が、選ばれた特別の存在だということである。これを「愛着の選択性」という。愛着とは、ある特定の存在(愛着対象)に対する、特別な結びつきなのである。愛着対象は、その子にとって特別な存在であり、余人には代えがたいという性質をもっている。特別な存在との間には、見えない絆が形成されているのである。それを「愛着の絆」と呼ぶ。
・実の親に育てられた子どもでも、同居する祖父母や親戚が可愛がってくれるからというので、母親があまり可愛がらなかった場合、後年、精神的に不安定になるということは、しばしば経験するものである。
【愛着の形成と臨界期】
・愛着の形成とは、特別に選ばれた人物との関係が、不動のものとして確立する過程だともいえる。
・新生児のときから、すでに愛着の形成は始まっているが、まだそれは原初的な段階にある。生後6か月くらいまでであれば、母親を少しずつ見分けられるようになってはいるものの、母親が他の人に変わっても、あまり大きな混乱はおきない。新しい母親に速やかになじんでいく。ただし、この段階でも、母親が交替すると、対人関係や社会性の発達に影響が及ぶこともわかっている。結ばれ始めた愛着がダメージを受けると考えられる。6か月を過ぎるころから、子どもは母親をはっきりと見分け始める。ちょうど、人見知りが始まるころだ。それは、愛着が本格的に形成され始めたことを意味している。生後6か月から1歳半くらいまでが、愛着形成にとって、もっとも重要な時期とされる。この「臨界期」と呼ばれる時期を過ぎると、愛着形成はスムーズにいかなくなる。
・愛着がスムーズに形成されるために大事なことは、十分なスキンシップとともに、母親が子どもの欲求を感じとる感受性をもち、それに速やかに応じる応答性を備えていることである。子どもは、いつもそばで見守ってくれ、必要な助けを与えてくれる存在に対して、特別な結びつきをもつようになるのだ。求めたら応えてくれるという関係が、愛着を育むうえでの基本なのである。この時期、母親はできるだけ子どもの近くにいて、子どもが求めたときに、すぐに応じられる状態にあることが望ましい。 


【感想】
・ここまでの要点は、①安定した愛着が形成されると、対人関係、感情、認知、行動面で大きな問題が生じない、②愛着は「抱っこされる」ことによって形成される、③愛着の対象は「特別な選ばれた存在」でなければならない、④愛着の「臨界期」は生後6か月から1歳半までである、ということである。
・私自身を例にとると、私の母は私が生後5か月のときに病死した。したがって愛着形成の「臨界期」には、すでにその対象を失っていることになる。さればこそ、私の愛着スタイルは極めて不安定であり、対人関係、感情、認知、行動面に大きな問題を生じさせたことは明らかである。特に、「対人関係」「感情」面での「偏り」は顕著で、社会性の未熟さ、交友関係の狭さは否定できない。未だに「人の感情に共感できない」「他人の気持ちを理解できない」ことで、様々なトラブルを抱えているのである。
・「愛着」とは、「人を好きになる感情」「仲良くする生業」とも言い換えられようが、いずれにせよ、「理屈」「道理」とは無縁である。
・筆者は「まえがき」で〈どういう愛着が育まれるかということは、先天的にもって生まれた遺伝的要因に勝るとも劣らないほどの影響を、その人の一生に及ぼすのである。その意味で、愛着スタイルは、「第二の遺伝子」と言えるほどなのである〉と述べている。その「第二の遺伝子」にどう向き合えばよいのか、実に悩ましい問題である、と私は思った。(2015.9.20)