梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団三ツ矢」(座長・三ツ矢洋次郎)

【劇団三ツ矢】(座長・三ツ矢洋次郎)〈平成24年10月公演・千代田ラドン温泉センター〉
この劇団の舞台は初見聞だが、客席には40人余りの贔屓筋が詰めかけている様子で、開幕前から(茨城では珍しい)「熱気」が感じられた。劇団の出自は不明だが、埼玉、茨城、栃木あたりを根城にしている、関東の劇団なのだろうか。劇団員は、太夫元・三ツ矢弥生、座長・三ツ矢洋次郎、三ツ矢舞咲斗、三ツ矢龍之助 、三ツ矢えりか、三ツ矢たかあき、子役・三ツ矢かれん、投光・三ツ矢ちあきという面々であった。今日の舞台では、特別ゲストとして橘屋虎舞龍も加わっていた。さて、芝居の外題は「母恋鴉」。大店の材木問屋に後妻に入った母(三ツ矢弥生)とその息子・喜太郎(三ツ矢龍之助)の物語である。喜太郎には腹違いの兄(弟?)清三郎(座長・三ツ矢洋次郎)がいた。相思相愛の恋人(三ツ矢えりか)もいたのだが、清三郎が「横恋慕」、加えて土地の鮫一家親分(橘屋虎舞龍)も恋人を狙っている。ある祭りの夜、清三郎と恋人が連れ立っているところに、鮫一家の子分たち(三ツ矢舞咲斗・他)が現れ、無理矢理、恋人を連れて行こうとする。清三郎、必死に守ろうとするのだが、非力で抗えない。その窮地を救ったのが喜太郎、しかしはずみで子分を刺殺、凶状旅に出ることになった。二景は、それから3年後。今では清三郎と喜太郎の恋人を「女房」にして、継母をいじめ抜いている。そこに帰ってきたのが股旅姿の喜太郎・・・。懐かしい母子対面となったが、清三郎は「ここは大店、ヤクザ者の来るところではない」と追い返す。折も折、自分が博打場で被った借金の形にと、「女房」が鮫一家に拉致された、という知らせ・・・・。そこで、清三郎の態度は一変、喜太郎に助けを求める、といった筋書きで、座長・三ツ矢洋次郎の(淡々とした)「継母いじめ」「豹変ぶり」の景色が絵になっていた。また、橘屋虎舞龍の親分姿も「貫禄十分」で大いに楽しめた。この芝居、実は、「鹿島順一劇団」の「木曽節三度笠」と瓜二つの内容だが、その出来映えには「大差があった」、と私は思う。その1、主人公・浅間の喜太郎の風情が「今一歩」、瑞々しさに欠けている。その2、その恋人の風情が「今一歩」、清々しさに欠けている。その3、喜太郎と母の「絡み」が今一歩、義理に勝てない人情の描出に欠けている。その4,各場面で流れる「音曲」操作(スイッチのオン・オフ、音量の調整)が粗雑(無神経)すぎた。舞台は変わって「新歌舞ショー」、幕開けは洋次郎・龍之介の相舞踊「新門辰五郎」、「よおっ、御両人」と思わず声をかけたくなるような、見事な出来映えであった。とりわけ、三ツ矢龍之助の「女形舞踊」は魅力的である。この役者さん、かつては常磐龍之助という名で劇団を率いていた由、洋次郎、龍之助の出身地は福岡県久留米市、ともに初舞台が0歳だとすれば、二人は兄弟、太夫元の三ツ矢弥生は母、加えて、たかあきも身内?(真相は不明)などと、勝手な想いを巡らせてしまった。さらにまた、特別出演の橘屋虎舞龍は、「近江飛龍劇団」橘小寅丸の身内?、「南條光貴劇団」と関係があった?などなど(私の)「謎」は深まるばかりである。そんな折り、突然、躍り出たのは、洋装の「女形」、登場したのは誰?(多分、三ツ矢たかあき?)、和装で洋舞を演じるのがほとんどの昨今、「洋舞は洋装で」の原則を披露する姿勢は、お見事、その姿も「初々しい媚態」の連続で、ひときわ輝いて見えた。今日もまた、大きな元気をいただいて岩盤浴に向かった次第である。
(2012.10.20)