梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

《「聞く力」を育てるために》・7・聴解力

7 聴解力
 さて、「聞く力」の最後の過程、その7は「聴解力」であります。「聴解力」は、これまで述べてきた「感度」「弁別力」「記銘力」「分析力」「統合力」「構成力」が総合化された能力だといえましょう。「音声言語」を聞いて、その意味(話し手の意図)を理解し、相手の考えや気持ちを「共感」できる能力です。「昔話」「放送劇」「落語」などを聞いて「楽しむ」(感動する)ことができれば、たしかな「聴解力」が身についているといえるでしょう。
 国語教育では、「読解力」といわれる「能力」が取りざたされますが、この「文章を読んで、その意味を理解する力」も、実は「聴解力」を土台にしていると考えられます。前にも述べましたが、文章を「読む」ということは、「文字の羅列」を目で追いながら、それを「音」に変換していくことです。その「音」を聞いて「意味」を理解することが「読解」に他なりません。極論すれば、「読む」ことは「聞く」ことです。「見る」ことではありません。視覚障害があっても、「点字」(触覚記号)という媒体を使えば「読む」ことができるのですから。
 では、その「聴解力」を養うために、どのような活動をすればよいでしょうか。
① 「単語」を「連続」して聞き、特定の「単語」を聞き出す。
聞き分けられる「絵カード」を数枚並べ、該当する「単語」だけ拾う。指導者は、「百人一首」の「空札読み」のように、「絵カード」とは無関係な「単語」を20語ほど「連続」して言い、その中に、並べられている「絵カード」の単語も「時折」混ぜます。子どもは、その単語を「聞き逃す」ことなく拾うことができるでしょうか。同様に、20語ほどの「単語」の中から、「食べ物」だけ、「動物」だけ、「乗り物」だけ、を聞き出して「書く」(メモする)という活動にも発展させることができます。
② 「文章」(童話・詩など)を聞いて、頭の中に残った(好きな)「単語」を書き出す。(メモする)
 「聞く」活動で大切なことは、「必要なこと」(要点)は何かを「考えながら」(ことばを「取捨選択」しながら)「聞く」ということです。「音声言語」は、「空気の振動」ですから、「形」が見えません。時間に沿って「流れるように」消え去ってしまいます。「文章」の全体を、すべて「記憶」することはできません。そこで「聞き流す」という方法が重要になります。膨大な「単語」の中から、必要なものだけを「聞き出す」ことが、上手な「聞き方」といえるでしょう。
③ 「文章」を「音読」する。
<ステップ1> 
 「文章」(文字の羅列)を「見せ」、指導者は「文節」(句読点)で区切りながら、ゆっくり「音読」(範読)します。子どもは、その「範読」に合わせて、文章を「指で」たどります。子どもの指の位置は、指導者の「範読」の場所と一致しているでしょうか。「範読」は、テープに録音し、指導者も子どもと一緒に「指で」たどる方法も考えられます。
<ステップ2>
同様にしながら、指導者は句読点まで「範読」し、そこまでを子どもは「復唱音読」します。指導者は、その活動の様子を必ずテープに録音して、「やりとり」「発声」「構音」「読み誤り」などの実態を的確に把握することが大切です。
<ステップ3>
 「文章」を見て、指導者と子どもが「同時音読」します。「語調」「スピード」「アクセント」など、指導者の「範読」と子どもの「音読」が「一致」するように、「楽しく」繰り返しましょう。
<ステップ4>
 「文章」を見て。指導者と子どもが句読点ごとに、「リレー音読」します。相手がどこまで読んだかを聞き取り、タイミングがずれないように、「呼吸を合わせて」繰り返すことが大切です。国語学習の「群読」に結びつけることができるでしょう。
<ステップ5>
 子どもは、「文章」を見て、単独で「音読」します。その様子は必ずテープに録音し、「変化」を「評価」することが大切です。
<ステップ6>
 「音読」できるようになった「文章」を「暗誦」します。「文章」を見なくても「音読」できるようになったら、指導者、保護者に向かって「発表」することもできます。「学習発表会」などを計画し、「自信」「意欲」を高めてください。
④ 「文章」の意味、内容、主題などについて考える。
 いわゆる「読解」という学習活動を行います。この活動を行うためには、子どもが「文章」をすらすらと「音読」できることが前提となります。<ステップ4・5>の段階になったら、併行して始めましょう。
「文章」の内容を理解するということは、「いつ」「どこで」「だれが」「どんな気持ちで(なぜ)」「どんな様子で(どのように)」「何をしたか」、いわゆる「5W1H」を明らかにすることですが、そのことを直接、子どもに「問いただそう」とすると、失敗します。まず、その「文章」を読んで、「どんなことがわかりましたか?」と、「問いかける」ことが大切です。(もし、答えられなければ、「文章」を「音読」(暗誦)できても、その意味は理解していないことがわかります。「では、わからないことはどんなことですか?」という問いかけにも答えられなかったとすれば、その「文章」は子どもにとって「むずかしすぎる」ということがわかります。指導者は、教材の選択を誤ったことを反省しなければならないでしょう。)幸いにも、子どもが「ももたろう」と答えたとします。指導者はどのように応じればよいでしょうか。「そう?ももたろうがでてきたの?」と、子どものことばを「復唱」しながら大きくうなずきましょう。大切なことは、「文書」の内容を「教える」のではなく、子どもが「文章」から読み取った内容を「教えてもらう」という、指導者の「姿勢」です。「教えてくれてありがとう」という気持ちです。大きくうなずいた後で、「もっと教えてください」という気持ちを込め、「それで?」と「問いかけ」、子どもの反応を待ちます。「ウーントネー、・・・おばあさん」などと答えてくれたら大成功です。「そう?おばあさんもでてきたの。それで?」「・・・おじいさん」「なるほど!おじいさんもでてきたんだね」指導者は、子どもの頭の中に「文章」の「だれが」という内容が「定着」していることを確認します。つい、「ももたろうは何をしたの?」「おばあさんは何をしたの?」などと「問いただしたい」気持ちになりますが、子どもの「答え」を限定すると、子どもの気持ちは「緊張」します。「自由」に、「間違ってもよい」という雰囲気の中で、「楽しく」やりとりすることが大切だと思います。一回目の活動は、登場人物を確認するだけで終わるかもしれません。それはそれでよいのです。子どもの中に、「もっと、たくさんのことを先生に教えてあげたい」という気持ちを育てることが、「自信」と「意欲」を高めるからです。そのようなやりとりの中で、時には「役割交代」しながら、「先生は、ももたろうは『鬼退治』に行ったったことがわかりました!」などと、「5W1H」に関する内容を伝えていくことが効果的でしょう。
 要するに、「文章」を読んで、いきなり「5W1H」を問いただすのではなく、「わかったこと」(要点)、「わからないこと」(疑問)、「思ったこと」(感想)、「おもしろかったこと」「考えたこと」等々、子どもの頭の中に浮かんだことを、「自由に」「のびのびと」表現することが「読解」のポイントではないでしょうか。


 これまで、「聞く力」とは何か、それを育てる活動はどうすればよいか、について述べてきましたが、おわかりいただけたでしょうか。「感度」から「聴解力」までの七つの過程は、指導過程ではありません。それぞれによって「難易度」が異なりますので、七つの過程、その内容を吟味し、子どもの「関心」「能力の実態」を考慮して「指導計画」(活動内容)を「組み立てる」(組み合わせる)ことが大切だと思います。指導者としての実力(「知識」「技術」)が問われることになります。(つづく)