梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

《「聞く力」を育てるために》・6・構成力

6 構成力
 その6は「構成力」であります。単語や文の「一部」を聞いて、「全体」を「類推」する能力です。「音声言語」は、つねに「流動的」です。実際の場面では「言い誤り」「聞き取りにくさ」など「不完全」な情報になることは避けられません。そこで、その「不完全」を「補って聞く」能力が必要になりますが、それが「構成力」だといえましょう。
 「ITPA言語学習能力診断検査」には「文の構成」という内容があります。テープに「先生さようなら、みなさん○○○○○」という音声言語が録音されており、空白の部分が「聞き取りにくく」なっています。被検者は、その部分を想定して答えるわけです。
 この「構成力」は、すでに頭の中に相当量の「音韻体系」(内言語)が貯えられていることを前提としています。つまり、この「構成力」も「記銘力」を土台としているのです。 私たちの日常会話は、この「構成力」を土台にして成り立っています。「最近どうですか?」「ええ、まあまあです」「そうですか、それは何よりです」などというやりとりは、日常茶飯事です。意味としては全く不明ですが、お互いに「意味」の部分は省略し合って、「気持ち」だけを交流しているのでしょう。つまり、「一を聞いて十を知る」ような能力が必要とされるのです。会話の上手な人、下手な人の違いは、「構成力」の違いだと言っても過言ではないでしょう。
 では、「構成力」を養うために、どのような活動があるでしょうか。
① 「文カード」の空白を埋める。
「分析力」を養う活動でも述べましたが、文の中の助詞や助動詞を的確に聞き取り、音を「補って」理解する活動です。「たばこ」「たまご」「たなご」は音韻的には大変「似通って」おり「弁別」しにくい単語です。しかし、「○○○をすう」「○○○をゆでる」「○○○がおよぐ」という文の中では、どの空白に埋まるかはっきりするでしょう。聞き取りにくい単語は、文脈の中で考えながら「聞く」ことが大切になります。(そのためには、知っていることばの数を増やさなければなりません)
② 「絵カード」(単語)の「一音」を聞いて、拾う。
聞き分けられる「絵カード」を数枚並べ、指導者はその単語の語頭「一音」だけ言います。たとえば「カ」、子どもは語中・語尾の「ラ・ス」という音を「補って」(構成して)「鴉」の「絵カード」を拾うというように。
③ 「ことわざ」「俳句」の、上の句を聞いて、下の句を言う。
「絵カード」などを手がかりに、指導者が「鬼の目にも」と言い、子どもは「なみだ」と応えます。知っている(憶えた)「ことわざ」「俳句」を使って、「役割交代」しながら
「楽しく」繰り返すことが大切だと思います。また、「ITPA言語学習能力診断検査」には「ことばの類推」という内容があります。これは、「表象水準」の検査で、ことばの意味を手がかりにしなければならない(関係類推)ので、むずかしいかもしれませんが、徐々に挑戦してみてください。
④ 「日常会話」を楽しむ。
学習の場面では、どうしても正確な「ことばのやりとり」に心がけることが多く、「問い詰めたり」「正したり」することが多いように感じます。先ほども述べたように、「日常会話」とは、本来「楽しむ」ものであり、不完全な情報を、「勝手に」「補い合って」気持ちを交流することが大切だと思います。こちらが何も言わないのに、子どもの方から話しかけてくるようであれば、十分に「日常会話」を楽しんでいることになるでしょう。(つづく)