梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇場界隈・まんてん星の湯「三国館」

 上越新幹線・上毛高原駅から猿ヶ京行きの路線バスに揺られてほぼ三十分、「見晴下」停留所の真上に、「まんてん星の湯・三国館」は建っていた。案内パンフレットによれば、〈湯ったり、のんびり、静かな湖面を渡る風の中で。まんてん星の湯 この名の由来は、施設敷地内に咲くつつじ、満天星(どうだんつつじ)と夜のとばりの訪れとともに輝く満天の星空から名付けられたもの。満天星(どうだんつつじ)が持つ「やさしさ」と満天の星空のような「清らかな美しさ」に満ちた温泉施設であることを表しています〉ということである。施設内には、七夕の湯、里の湯の大浴場と露天風呂、レストラン、大広間などが備わっているが、何と言っても特徴は、350名収容の多目的ホール・三国館が併設されており、不定期ながら春・秋に「大衆演劇公演」が催されていることであろう。この劇場、「音響、照明設備を完備したホール」ということで、およそ旅芸人の芝居小屋とは無縁といった「たたずまい」で、客筋も「上品」でおとなしい。幕が上がれば、「咳ひとつせず」「一心に」舞台に集中する。ふだんは「文化活動の発表」が重ねられている場所、大衆演劇の景色・風情は「やや場違い」といった感じは否めない。今日は、6月公演「南劇団」(座長・南竜花)の千秋楽。芝居の外題は「権三と助十」。土地の与太者に拐かされそうになった金持ちの娘(副座長・寿純)を、籠カキの権三(南リュウホウ)と助十(南龍弥)が助け出すというお話。助けられた娘は、助十に「一目惚れ」、「添わせて欲しい」と下女(南竜花)に懇願、「わかりました」と引き受けた下女、なぜかその縁談話を権三の方に持っていく。権三、「こんな自分にお嬢さんが惚れるわけはない」とビックリするが、「間違いありません」と太鼓判を押す下女の様子に、徐々に納得。「なるほど、男は顔じゃあないんだ」と自信満々で仮祝言の場に臨むが、やっぱり結果は大逆転・・・。平謝りの下女を相手に「なすすべもなく」茫然自失の権三の風情は、文字通り「嬉しがらせて泣かせて消えた」という謳い文句そのままで、ベテラン旅芸人・南リュウホウの独壇場ではあった。
(2008.10.26)