梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

《「聞く力」を育てるために》・4・「分析力」

4 分析力
 その4は「分析力」であります。前にも述べたように、私たちは「音」を「時間」の中で「全体」として「感じ取り」ます。しかし、その「音」には「長短」の違いがあります。「全体」としては1語であっても、「ネコ」は2音、「カラス」は3音、「スベリダイ」は5音というように。つまり、その単語が「いくつの音で作られているか」、それを理解する能力が「分析力」です。日本語の音韻体系は「等時的拍音形式」にもとづいていますので、単語を分析することは、それほどむずかしくありません。昔の子どもは、じゃんけん遊びで「グリコ」「パイナツプル」「チヨコレエト」などと、外来語を「等時的拍音形式」化して遊びました。「しりとり遊び」も、単語を分析し、語尾の音が何であるかを見つけなければなりません。「分析力」を必要としています。
 そして、最も大切なことは、この「分析力」は「かな文字」の学習にとって必要不可欠な能力だということです。「かな文字」は表音文字であり、意味を表していません。意味のある「単語」を「一音」「一音」に分析し、それに対応する視覚記号として「かな文字」が作られました。「一音」も「かな文字」も、きわめて「抽象的」な存在です。したがって、具体的なことを具体的に理解する段階では、「一音」は「声」、「かな文字」は「インクのシミ」でしかありません。「語音」(声)を分析し、それを「かな文字」に結びつけて理解することは、「抽象的」な学習であり、「弁別力」「記銘力」が不十分な場合には、「相当むずかしい」学習であることを、指導者は銘記する必要があるでしょう。
 「分析力」を養う学習としては、どのような活動があるでしょうか。
① 「単語」の「音節数」を数える。
「目」「ネコ」「カラス」「手袋」「スベリダイ」などの「絵カード」を用意し、その裏に「・」「・・」「・・・」「・・・・」「・・・・・」という数図を描く。「目」「ネコ」の「数図」の方を見せながら、「メ」「ネコ」と言って、該当するカードを裏返し、「絵」で確認する。できたら、「カラス」「手袋」「スベリダイ」というように音節数の多い「絵カード」を増やしていく。「絵カード」を見せて、「数図」を書かせる。
② 「しりとり遊び」をする。
スムーズにできない場合は、指導者が一人で行い、子どもはそれを聞いて「楽しんだり」「復唱」することから始めましょう。
③ 「絵カード」を見て、「かな文字」を並べる。
「目」には「め」、「ネコ」は「ね」「こ」、「カラス」は「か」「ら」「す」というように、並べることを繰り返します。「絵」は「食べ物」「乗り物」「動物」など、子どもが大好きな物を選ぶことが効果的だと思います。
④ 「ひらがな五十音」の「かな文字」を見分ける。
大切なことは、まず「形の違い」を見分け、同じ文字を「分類」することです。(いきなり、文字を見せて「読ませよう」とすると、子どもは自信・意欲をなくすおそれがあります)「し」「つ」「く」「へ」や「あ」「お」、「わ」「「ね」「れ」、「は」「ほ」などは「見分けにくい」ので、性急に正答を求めないように留意する必要があります。(ハングル、点字などを一回で見分けることは、私たちでも困難でしょう)子どもが、同じ文字を「分類」しようとするとき、指導者は「それとなく」その音を「つぶやくように」聞かせます。その音を、子どもは聞いているでしょうか。もし、「復唱」するようであれば、活動は順調に展開していることになります。
⑤ 「かな文字」を「音読」する。
「かな文字」の「一つ」でかまいません。子どもは、自分の好きな「文字」から読み始めます。よく目にする「文字」、特徴的な形の「文字」から読み始めます。最近では、五十音表のボードにある「一文字」を押すと、その「音」が出る玩具が市販されています。PC学習ソフト「ことばの玉手箱」(IBM)にも、「文字」をクリックすると「音」が出るという内容があります。その「音」を聞き分けられる子どもであれば、有効的に活用できるでしょう。「文字カード」を見せ、その通りにボードのキーを押すと、ボードが「音読」してくれることになります。
⑥ 「単語カード」の空白を埋める。
 「か○す」「た○ご」「た○こ」「さか○」「○くえ」などの「文字カード」を見て、空白の文字を埋める活動です。「絵」を見たり、音声言語を聞いたりしながら、単語の「語音」を分析して、その中の「一音」を「聞き出す」(抽出)能力が必要です。「絵」を見なくても、音声言語を聞かなくても埋められるようになれば、そのことばが「音韻」として頭の中に貯えられているといえるでしょう。
⑦ 「文カード」の空白を埋める。
 「はな○さく」「りんご○たべる」「うみ○ひろい」「おに○め○○なみだ」「なのはな○つき○ひがし○ひ○にし○」などの「文字カード」を見て、空白の文字を埋める活動です。文の中の助詞、助動詞を的確に聞き取り、文の意味を正しく理解することが大切です。できるようになったら、その「文カード」を「音読」する活動も必要です。後で述べる、「構成力」を養う活動に直結するからです。(つづく)