梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

相模原殺傷事件・容疑者の「手紙」

 相模原殺傷事件の容疑者は、犯行のほぼ5カ月前、衆議院議長宛に手紙を綴っている。その内容を要約すると以下の通りである。


①私は障害者総勢470名を抹殺することができる。世界経済の活性化、本格的な世界大戦を未然に防ぐことができるかもしれないと考え、本日行動に移した。
②障害者は人間としてではなく、動物として生活している。私の目標は、重複障害者が家庭生活、社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界だ。
③戦争で未来ある人間が殺されることは悲しく憎しみを生むが、障害者を殺すことは、不幸を最大限にまで抑えることができる。
④今こそ革命を行い、辛い決断をする時だと考える。衆議院議長の力で世界をよりよい方向に進めてもらいたい。このことを首相にも伝えてもらいたい。
⑤私は、全人類が心の隅に隠した想いを声に出し、実行する決意を持って行動した。
⑥私は、小学校教諭免許と障害者施設での経験を生かし、特別支援学校の教員を目指していた。交通事故に遭い後遺障害が残ったので300万円入手予定だ。その金で株を購入する予定だった。今後も更なる発展を信じている。
⑦私は、外見が大切なことに気づき、美容整形を行う。宇宙人が代表するイメージを実現している。UFOを2回見たことがある。未来人かもしれない。
⑧別件で、2つの願いがある。その一は、医療大麻の導入である。大麻は精神薬と違い、必要不可欠である。その二は、カジノの建設と日本軍の設立、刺青を認め、簡単な筆記試験にする。
⑨職員の少ない夜勤に決行する。重複障害者が多く在籍している二つの園(津久井やまゆり、●●●●)を標的とする。職員は絶対に傷つけず、速やかに作戦を実行する。2つの園260名を抹殺した後は自首する。
⑩逮捕の監禁は最長で2年まで、心神喪失による無罪とし、その後は自由な人生を送らせてほしい。新しい名前、本籍、運転免許証、美容整形など、金銭的支援5億円を確約してもらいたい。
⑪決断頂ければ、いつでも作戦を実行する。首相にも相談してもらいたい。


 以上から、この手紙は容疑者が「作戦実行」するための了解・承認・許可を衆議院議長に求めたものであることがわかる。しかし、議長はじめ衆議院事務局は「全く取り合わなかった」。その時の様子について、ウィキペディア百科事典には以下のように記されている。「被疑者は2月14日に議長公邸を訪れ、書簡を渡したいと申し出たが受け入れられず、再度、翌日に公邸正門前に座り込んだ。衆議院側では対応を協議し、手紙を受け取った。手紙に犯罪を予告するような内容があったため、衆議院の事務局が、議長の指示を仰いで警察に通報し、手紙を提出した。」(抜粋引用)
 衆議院事務総長は「すぐに議長の指示をあおいで警察に連絡しており、適切な対応だったと考えている」と述べたそうだが、結果として前代未聞の殺傷事件を防ぐことができなかったことに変わりはない。 
 もし、この時点で衆議院議長が直接、容疑者に「あなたの作戦は誤りである。したがって作戦を実行することは許容しない」旨の回答をしていたら、どのような結果になったであろうか。
 手紙の内容は、ほとんど荒唐無稽、支離滅裂だが、⑨⑩⑪は「絵空事」ではない。さればこそ、事態を看過できず、警視庁及び施設は津久井警察署に、津久井警察署は容疑者を「精神病患者」扱いとして「緊急措置入院」させたのである。この間においても、容疑者と正面から向かい合い、彼の誤謬を正せる者は一人もいなかった。要するに容疑者を「たらい回し」にしたことが、今回の「狂気の沙汰」を招いたとしか思えない。
(2016.8.7)