梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

人を守るのは人

 車椅子で電車に乗り降りする際には、駅員が付き添う。しかし、白杖を持った視覚障害者に駅員が付き添う姿はあまり見かけない。なぜだろうか。ホームからの転落を防ぐために、ホームドアの設置が叫ばれているが、膨大な費用がかかる。その費用よりも事故処理の費用の方が安く済むといった意見もあるようだ。豊かで便利な社会とは、そのような経済理念に支えられて成り立っているのだろうか。大切なことは、無償の奉仕である。一人一人が弱者に寄り添い、共生・共存しようとする精神である。車椅子の利用者と同じように、まず駅員が視覚障害者の安全を確保すれば、ホームドアは不要になる。人を守るのは人であって、物ではない。誰にでもわかる簡単な道理が、今、忘れられているような気がする。(2016.9.7)