梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「高群逸枝全集 第一巻 母系制の研究」(理論社・1966年)通読・3

【要点】
第二節 本書における母系制研究
・本書において母系制というのは、母を中心として形成される親族制度の義である。例えば、支那の古文献に散見する女子国、女国等の語は、この制度と何等かの関係において考えることができるものであろう。(略)魏志の記述では、我が国も女王国の一であって、その制度は(唐書にある)東女国と略々似たものがあるらしい。
・本書の研究範囲は、母系制そのものを考察せんとするものではなく、通史たる日本女性史に即して、その上代における母系の遺存を研究せんとするものである。さればその研究材料も、(略)日本上代の氏族社会を最も具体的に表現せる当時の系譜及び婚姻事情を中心に採ったのである。
・本書の志す範囲における母系制研究の意義もまた極めて狭義で、これによって、日本氏族社会の諸事情ないし家族制度の起源に関する諸問題を窺い、他面にあっては母系遺存の俗が国家の中央統制をしてかえってこれを平和裡に進行成就せしめた事実、国作り、氏作り、部作り等の所業を遂行し、異種族及び古代賤民の系譜的乃至血統的解消に成功した事実等をも理解すべしとなすのである。


第三節 母系制研究の文献
・私の求めるものはほとんど得られなかったといってよい。ただ部分的に、一二の収穫を見たに過ぎない。女人政治考、日本母系制時代の研究の中の数章がそれである。女人政治考は、直接母系制度を研究したものではないが、それに触れている書として記憶さるべき好著である。大正15年の出版で、著者は佐喜真興英、柳田国男の序文に依ると、沖縄の産で、穗積陳重に師事し、その激励ににより改稿五度に及んで未だ刊行を見ず物故したという。書中「古琉球及び古代日本の母系」と題する項及びその他において、古琉球における女系相続の実例、女君の事跡、日本における類似の現象等を挙げている。考古学者高橋健自は、この書を推奨して、上古の日本に女治(母系、母権と関連して)の存在したことを、最も早く史実に拠って立証した書である、と言っている。この書の価値は女治問題に有り、母系方面への直接的寄与は僅少であろう。次に、日本母系制時代の研究(昭和7年)は渡辺義通の著である。この書は日本母系制研究の唯一の書ではないかと思われるが、著者の序文にも「本書は日本母系時代に関する二三の研究とも名づくべきものだが、表題は多少とも出版者の意を参酌したものだ」とあるように、母系制に関する研究は40頁の記載に過ぎない。
・このほか、著者の中で言及している学者は多い。


【感想】
・ここでは、本書の母系制研究の意義、母系制研究の文献について述べられている。本書の母系制研究は、その研究材料を「上代の系譜」に採り、その研究によって、氏族社会の諸事情、家族制度の起源に関する諸問題を窺い、母系遺存が国家に平和をもたらした事実(国作り、氏作り、部作りを遂行した事実)、および異種族や賤民の系譜的・血統的《解消》に成功した事実、を理解することができる、ということである。
・参考にした文献は少ないが、「女人政治考」(佐喜真興英)、「日本母系制時代の研究」(渡邊義通)等がある、ということである。 
・「上代」とは、奈良時代、平安時代をさすと思われるが、その時代の日本は「母系制社会」であった。ということから、どのようなことが分かるのか、楽しみである。
(2019.10.15)