梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「高群逸枝全集 第一巻 母系制の研究」(理論社・1966年)通読・2

母系制の研究
第一篇 緒論
第一章 女性史の目的 
【要点】
第一節 女性史とは何か
・女性の立場による歴史研究の学問である、と答えてもよいと考える。
第二節 女性史研究の沿革
・我が国に女性史が生まれたのは、明治以後のことであるが、その端緒は、大日本史にある。それは内容を本紀と列伝とに大別し、本紀においては主権を中心にして紀年順に史実を記載し、列伝においては著名な人物の伝を収めるのである。この列伝に、后妃、皇女、烈女等を載せているのは、列伝的女性史の最初の型であろう。列伝式は、この他に女鑑、烈女伝、比売鑑等の女訓類にも採用せられている。(これらが)女性史のない時代に、いわばその先駆をなしたものである。
・明治以後、最も古いのは、明治34年須藤求馬著日本女史である。この書は内容を上中下の三編に分け、上編に神代、国造時代、中編に公郷時代、下編に武家時代を収め、各期毎に著名女性の伝を中心とし、制度、文物、風俗等をこれに配して、一の型を試みたものである。その後、大正3年に久保田辰彦の日本女性史、14年に中川一男の日本女性史論、昭和8年に龍居松之助の女性日本史及び大井田源太郎の日本女性発達史、9年に白柳秀湖の日本女性史話が出た。主に須藤式記述法に依るもので、一般の女学生を対象とする教訓書、家庭に供給すべき読み物等の一種として編集されている書物が多い。この他に、白柳
秀湖・大日本閨門史、下田歌子・日本の女性の二著が大正2年に出ている。共にほとんど純然たる列伝書であるが、前者は女性の社会的地位を歴史的に観察したものであるといい、後者は固より歴史書ではないと自ら断っているがこの種の婦人の著書としては唯一のものである。
・これを要するに、人物中心の記述法は、前述の二段階に尽き、今後は文化史的、生活史的記載法に拠ることになるであろう。
第三節 著者の計画
・大日本女性史は、第一巻母系制研究、第二巻招婿婚研究、第三巻通史古代、第四巻同封建、第五巻同現代の計画である。このうち最初の二巻を母系制の研究にしたのは、ほとんど無開拓の処女地あるこの方向の分野が、日本女性史の序巻として特別に重要視されるべきであると考えたからに他ならない。次に、通史たる古代編は原始より鎌倉時代まで、封建編は室町時代より江戸時代まで、現代編は明治維新より現在までとするものである。


【感想】
・著者は、女性史を「女性の立場による歴史研究の学問」と定義づけていることが分かった。それが生まれたのは、明治以後であり、しかもそれは男性の立場による(女学生に対する)「教訓書」の類がほとんどであった。唯一、下田歌子・日本の女性が女性の立場で書かれた「女性論」だということである。著者も下田歌子も「歌人」であることが共通しているが、戦前の女性においては「歌を詠む」ことがステータスであり、男性と対等にわたりあう条件だったのだろうか。
・ともあれ、著者が女性史研究に取り組む以前には、女性の手による女性史研究は皆無であったとすれば、著者自身がまさに「昭和時代の烈女」に他ならないということであろう。興味をもって読み進めたい。(2019.10.14)