梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「高群逸枝全集 第一巻 母系制の研究」(理論社・1966年)通読・1

例言
【要点】
一 本書「母系制の研究」は、それ自身として完全に独立した一書である。ただ、著者は母系制研究の一環として、別に「招婿婚の研究」を出したから、この両書は当然姉妹巻をなす。この両書は、著者の大日本女性史全五巻計画のなかにあって、その一・二巻にあたる。「母系制の研究」は、著者の処女作で、昭和6年7月の初めに着手、13年3月すぎ完了。(略)
一 この研究は、嵯峨天皇勅撰として知られる京師および機内五国の氏族1180余氏の系譜をおさめた新撰姓氏録30巻、並びに、著者があらゆる古文献から右の姓氏録搭載氏族に関する一切の系譜的記録を集めたものを主要資料とし、作業は⑴多祖の研究、⑵複氏の研究、⑶諸姓の研究、⑷賜氏姓の研究の四つにわけて行われた。私はこれによって、日本における母系制の存在を確認し、系譜を通じて、母系が父系にとってかわられるところの歴史的過程を明らかにした。
一 私がこの研究をした時分は、単に母系制という言葉を口にすることさえはばかられるような事情にあった(略)。そのため、この書は、記述の直裁を欠いたところがあり、また学術書にふさわしくない敬語の類を多く用いている。(略)
一 私の女性史5巻の計画はつぎのようなものである。
1 母系制の研究
2 招婿婚の研究
3 古代女性史の研究
4 封建女性史の研究
5 現代女性史の研究
 著者は、このしごとにおいては、げんみつには学問的寄与をこころざすものにすぎないが、とはいえ、しごとへの情熱そのものは、このこと・・女性史の簡明・・によって、女性解放への歴史的根拠を明らかならしめ、男性中心の歴史観を訂し、人類進歩の正常化に役立たせたいという、やみがたいねがいにもとづいているのであって、この女性史を自ら「女性と祖国への愛の書」とよんでいるのは、この意味に他ならない。


【感想】
 私はこの全集十巻を発刊直後に購入、以後50年余り、書棚に積んでおいた。読みたくても、時間の余裕がなかったからである。やっと時間ができたので、これから読み始めたいと思うが、今度は余命が残っていない。どこまで読み通せるかは不明だが、もし100歳まで、いや90歳、80歳まででも生き延びられるならば可能かも知れない。と言うよりは、この全集および未読の書物を《全部》読み終わらせるために、私は100歳まで生きるのだ、と宣言した方がよいのかもしれない。これまでは、「命に執着するなんて未練がましい」と思っていたが、他人に迷惑をかけなければ、延命は許されるのではないか、という気持ちにもなってきた。 
 そんなわけで、体調の安定を図りながら、この全集を何年かかっても読み通したい。著者は、1894年(明治27年)生まれ、1964年(昭和39年)に70歳で他界した。日本の詩人・民俗学者であり、熊本県から上京後、アナーキズムと出会って女性史研究を志し、平塚らいてうと共に女性運動を始めた闘士である。「例言」を見るだけでも、冷徹、精緻でありながら包括的、総合的な発想力、創造力が窺われて、どのような論脈が展開されるのか、期待は高まるばかりである。
(2019.10.13)