梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

『「自閉」をひらく 母子関係の発達障害と感覚統合訓練』(つくも幼児教室編・風媒社・1980年)精読・39

C.痛覚
・たたくということで痛覚の刺激が与えられる。刺激の強さは、保育者自身の力の入れ具合で自由にコントロールできる。ゆうやかな刺激としては、子どもの肩や背中をリズミカルにやさしく叩いてあげればよい。子どもによっては、もっと強い刺激を必要としている場合もある。自傷行為がある場合には、その行為を止めさせようとすることではなく、むしろ自傷行為の刺激より多くの刺激を、その自傷行為のある部分に与えるようにする。痛覚刺激だけでなく、多くの種類の皮膚感覚刺激を与えるのである。
・逆に鋭すぎる痛覚をもった子どもや、他人に対する恐れのある子どもには、この痛覚刺激の活動はすすめられない。
・子どもの反応に従って刺激を与える場所を決めればよい。たたくという活動のほか、つねる、はじく、つまむ、ぶつけるなどが考えられる。
◆痛覚刺激の活動例
①手のひらで身体のあちこちをピシャピシャたたく ②手や足をつねる ③指先ではじく④皮膚をつまんでひねる ⑤おでことおでこでごっつんこ ⑥脚やお尻などをピコピコトンカチでたたく ⑦ボールをぶつける ⑧お手玉をぶつける ⑨たわしや固いブラシで強くこする ⑩リズミカルにやさしく肩や胸をたたく ⑪伝承遊び「にほんばしこちょこちょ」「おなかをポンポンたたきましょう」
D.振動覚
・皮膚を振動させて与えるこの刺激は、もっぱら器具(家庭用電気マッサージ器)に頼る活動となる
・この刺激も、子どもの喜ぶ部分に与えればよい。
・エアーズによれば、振動は、収縮していない筋に適用された場合には弛緩性の反応を引き起こす傾向があり、逆に収縮している筋に適用すると興奮的に作用するということである。だから、異常な筋緊張や望ましくない筋の緊張がある子どもには。緊張している場所に刺激を与えて、一層その望ましくない緊張を強めてしまうことのないように、注意しなくてはならない。
E.くすぐり覚
・わきの下、あごの下、わき腹、足のうらなどの中から、適当な場所を選んでくすぐっれあげる。
・くすぐるときには、子どもにはっきりわかるように、これからくすぐるぞという態度を大げさに示しながら、「○○ちゃん、くすぐるよ」などと予告して、それからくすぐる。
「コチョコチョ」などと言語刺激を伴わせて、刺激の効果を高める。
・くすぐる活動は、動きの少ない子ども、笑いの少ない子ども、自閉的な子どもに適している。非常に簡単で、楽しい活動なので数多くやってあげることができる。他人からくすぐられて自閉的な子どもが笑い出すようになれば。まず一歩前進である。
◆くすぐりの歌例
①いもやのおじさん ②ロンドン橋
F.温(冷)覚
・熱い、あたたかい、ぬるい、冷たいなど温度を感じとる感覚に働きかける刺激である。
・「アヴェロンの野生児」で有名なイタールやセガンも、この訓練方法を紹介している。
◆暖房、入浴、頭から湯をかける、冷たい水と熱い湯の中に交互に手を入れるなど。
・「顔や耳や手足に息を吹きかける」方法は、おだやかな温(冷)覚刺激のひとつである。
◆温覚刺激の活動例
①氷を身体につける ②手のひらに氷をのせる ③熱い(冷たい)おしぼりで顔や手を拭く ④お風呂で湯と水を交互にかける ⑤両手がひじ近くまで入るくらいの大きさの容器に湯と水を入れて、かわるがわる両手をつけさせる ⑥顔や手足に息を吹きかける
・熱い湯やおしぼりを使うときは、やけどをさせないように気をつける。まず、保育者自身が試してから行うのがよい。
G.水中覚
・プール、海水浴、お風呂が大好きな子どもは多い。子どもが喜ぶ原因になっている菅器には、いろいろな感覚が考えられる。冷たい・温かいの温冷覚、水中で浮いている感じのの平衡感覚、水の肌ざわりを楽しんでいる皮膚感覚など、どれか一つの場合もあれば、総合された刺激がよいのかもしれない。
・1日中でも水の中につかっていたいというような子どもには、刺激を強くすることで満足感を与え、時間を短縮することができる。刺激を強めるということは、たとえば、ふつうのプールではなく造波プール、普通の風呂ではなく泡が出る銭湯、ジャグジーなどに連れて行くことである。季節にかかわらず、温水プールなどで水中覚の刺激を与えることができる。
【感想】
・ここでは、痛覚、振動覚、くすぐり覚、温(冷)覚、水中覚を刺激する活動例が、数多く紹介されており、たいへん参考になった。とりわけ、痛覚で「自傷行為がある場合には、その行為を止めさせようとすることではなく、むしろ自傷行為の刺激より多くの刺激を、その自傷行為のある部分に与えるようにする。痛覚刺激だけでなく、多くの種類の皮膚感覚刺激を与えるのである。」という記述は有益である。多くの場合、「止めさせようと」したり、なすすべもなく、こちらの方が「あきらめて見過ごす」のが現状ではないだろうか。本人がそこの部分の刺激を求めていることは確かであり、そこに痛覚刺激以外の「多くの種類の皮膚感覚刺激を与える」という方法は有効かもしれない、と私は納得できた。
・紹介されている活動例は、乳幼児を対象にしたものが多いが、振動覚や温(冷)覚、水中覚などは、青年・成人に対しても十分に活用できる。ある温泉施設で一人、泡の吹き出るジェット風呂を楽しんでいる青年の姿を思い出した。彼もまた「自閉症」と呼ばれる一人であったに違いない。(2016.5.10)