梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「本当はこわくない新型コロナウィルス」(井上正康・方丈社・2020年)通読・15《第5章 コロナウィルスと免疫》

《第5章》コロナウィルスと免疫(要約)
■新型コロナウィルスの標的は免疫弱者
・今回死亡した人の多くは、高齢者、癌・糖尿病などの基礎疾患を持った「免疫弱者」だった。
・免疫力が低下するとウィルスが肺の奥まで侵入し、血管の細胞に感染して血液を凝固させる。これで生じた血栓によって肺では呼吸困難を引き起こす。また、血栓が血流の乗って様々な組織で血管を詰まらせる。脳梗塞、下肢血栓症、川崎病(心血管病)などの症状が現れる。
・免疫システムが過剰反応してサイトカインストーム(白血球同士が情報をやり取りするサイトカインと呼ばれるタンパク質が無秩序に放出される現象)が起こると、重症化して死亡するケースもある。新型コロナによる重症化や死亡の主因は、このサイトカインストームだった。


■ウィルスから身を守る「免疫」のしくみ
・体内にウィルスや細菌が侵入すると免疫細胞が反応し、これを体外に排出しようとする働きがある。このしくみを「免疫応答」と言う。
・免疫には白血球のマクロファージやリンパ球が重要で、生まれながらに持っている「自然免疫」、ウィルスや感染した細胞などを直接排除する「細胞性免疫」と、抗体をつくりだして排除する「液性免疫」がある。
・抗体は免疫グロブリン(Ig)と呼ばれる血液タンパク質で、リンパ球のB細胞でつくられる。抗体には様々な働きがあるが、侵入してきたウィルスと結合して排除するものを「中和抗体」と言う。
・コロナウィルスに感染すると、様々な白血球が刺激されてIgMという大きな抗体が速やかにつくられる。この抗体は発症から1週間前後で最も多くなり、その後は速やかに低下していく。IgMと入れ替わるようにIgGという比較的長寿命の抗体が増加してくる。血中にIgMやIgGがあれば、ウィルスが感染しても素早く対応できる。
・はしか、天然痘、BCGなどのワクチンは、体内でこれらの病原体に対する抗体をつくりだしたり、攻撃性を持つTリンパ球をつくらせたりする。はしかや天然痘の免疫能は、一度獲得すると生涯持ち続けるので「終生免疫」と呼ばれている。
・コロナウィルスの場合は、IgG抗体の血中半減期が約36日と比較的短く、数か月後には10%以下に低下する。
・血中の抗体が低下してもリンパ球が免疫記憶を維持しているので、ウィルスに再度感染すると、速やかに免疫力が増強されてウィルスを排除する。土着のコロナウィルスによる風邪も同じであり、何度もかかるが、軽症ですぐに治る。


《図12 コロナウィルスの感染と免疫応答反応》
1・感染⇒2・応答【樹状細胞】⇒3・活性化
 ⇒【Bリンパ球】⇒4・抗体産生(IgM,IgG)
                         5・中和
⇒【Tリンパ球】⇒6・攻撃→感染細胞


*Bリンパ球・Tリンパ球⇒7・記憶


●ウィルスが①感染すると②白血球の樹状細胞が認識して③Bリンパ球(液性免疫系)を活性化し、④短寿命のIgM抗体や長寿命のIgG抗体を産生分泌させて、④ウィルスや感染した細胞を直接排除する。
・コロナウィルスの感染では抗体の寿命が比較的短い(半減期は36日)が、⑦免疫記憶を有するB細胞やT細胞が体内にとどまり、次の感染で刺激されると速やかに活性化されてウィルスを撃退する。ウィルス感染と同様にワクチンも②~⑦の過程を活性化する。


■抗体を持つ人が少なかった理由
・厚生労働省は7950人の抗体検査を実施し、新型コロナウィルスの感染陽性率が東京で0.1%(1人)、大阪で0.17%(5人)、宮城で0.03%(1人)であることを2020年6月17日に発表した。5月末までの累積感染者数から推定される高い感染率に比べると、この陽性率は極めて低い値だ。神戸での抗体検査でも、新型ウィルスの流行前でありながら、すでに3.3%が認められており、推計4万人以上の神戸市民がコロナウィルスに感染していたことが判明している。
・厚生労働省の検査による抗体陽性率が実際の感染者数よりはるかに低かったのは、特異的抗体のIgMやIgGの血中寿命が短いこと、および感染のピークから3か月以上も経過した後で抗体を測定したことが主な理由だ。


■ウィルスの感染防御には細胞性免疫が重要
・新型コロナでは、ウィルスや感染した細胞を直接攻撃して排除するTリンパ球の細胞性免疫が重要な役割を担っている。
・感染防御では、Bリンパ球の抗体とTリンパ球の直接的作用が共同して感染防御作用を発揮している。細胞性免疫のT細胞も時間が経つと血中濃度が低下していくが、活性化されたBリンパ球もTリンパ球も体内にとどまって免疫記憶を維持し続けており、次の感染が起こると速やかに活性化されてウィルスと戦う。
・したがって、抗体検査の数値が低くても、一度抗体ができたことが確認されれば、次にウィルスが入ってきても、免疫を記憶したリンパ球たちが活性化されてウィルスを排除してくれる。


■私たちのからだには「免疫記憶」がある
・血中の抗体が低下してもワクチンの効果や感染した記憶は残るので、感染によるリスクは初回感染より小さくなる。Tリンパ球による細胞性免疫でも同様だ。この免疫的記憶は、過去に遭遇したあらゆる異物(病原体の抗原)を記憶している。このメモリーを持ったリンパ球の数はわずかでも全身のリンパ節や脾臓などに存在していて、ウィルスなどの異物が侵入してくると猛スピードで数を増やして臨戦態勢に入る。コロナウィルスに対する血中抗体が低下していても、コロナウィルスの仲間が侵入してきたらすぐに応答して免疫反応を発揮できる。毎年のように風邪をひいても、軽くて速やかに治るのはこの免疫記憶のおかげだ。


【感想】
・ここでは、ウィルスから身を守る「免疫」のしくみがわかりやすく述べられている。
ウィルスが体内侵入し感染が始まると、白血球の樹状細胞が認識して、Tリンパ球やBリンパ球を活性化、Tリンパ球はウィルスや感染した細胞を攻撃する。Bリンパ球はIgM,IgGという抗体を分泌させてウィルスを中和する、ということである。
 抗体の寿命は短いが、リンパ球が免疫記憶を維持しているので、再度感染しても、免疫力はすぐに増強されて、ウィルスを排除できるということである。
(2021.1.11)