梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「本当はこわくない新型コロナウィルス」(井上正康・方丈社・2020年)通読・16《コロナウィルスの免疫反応と抗体の多様性》

■コロナウィルスの免疫反応と抗体の多様性
・コロナウィルスのスパイクタンパク質はウィルスの表面に突き出ており、抗体は主にウィルスのスパイクタンパク質と反応する。スパイクタンパク質は大きな分子量(180KD)なので複数の抗原部位があり、複数種類の抗体が産生される。このような抗体を「ポリクロナール抗体」と呼ぶ。
・新型コロナウィルスに対するポリクロナール抗体は、新型のみならず構造が類似したコロナウィルスとも反応する。これを「交差免疫」と呼ぶ。
・スパイクタンパクの基本構造はコロナ仲間でよく似ているので、土着コロナに対する中和抗体(ウィルス排除抗体)も交差免疫により他のコロナウィルス仲間にも作用する。
・オーストラリアの抗体検査で、新型コロナ感染患者の約85%に弱毒株と強毒株の両者を認識する抗体が生じ、新型コロナウィルス間で交差免疫反応が起こることが証明されている。
・また、スパイクタンパク質のN末端部位に結合する抗体は様々なコロナウィルスを有効に中和(無力化)することもわかっている。
・一箇所の部位にのみ特異的に反応する抗体を「モノクローナル抗体」と呼ぶ。モノクローナル抗体がスパイクに結合した場合、ウィルスを中和できる場合とできない場合がある。これはワクチンの開発で重要な問題になる。モノクローナル抗体は精度の高いライフル銃のようなものだが、ヒットする部位により殺傷力がない場合もある。散弾銃のように複数箇所を攻撃できるポリクロナール抗体では、どれかが中和抗体としてウィルスを排除する確率が高くなる。ワクチン開発では中和反応に有効なスパイクの部位に対する抗体を産生させる仕組みが重要になる。
・ウィルスの排除には細胞性免疫も重要だ。スウェーデンでの解析では、広範囲の人々が新型コロナウィルスに反応するTリンパ球を獲得したこともわかった。
・コロナウィルス間では液性免疫のみならず細胞性免疫でも有効な交差反応が起こる。
・SARSにより中国や韓国で8000人の死者が出た際に、日本では1人の死者も認められなかった。この事実も、日本人がコロナウィルス仲間に対して強い交差免疫力を持っている可能性を示唆する。古くから日本に住み着いていた土着コロナの交差免疫反応が関与した可能性が考えられる。


■BCGは新型コロナに効くのか?
・BCGは結核を予防するワクチンで、接種すると終生免疫が働いて長期間有効に作用する。結核菌のみならず、多くの病原体に対する免疫系を非特異的に活性化する作用があり、結核菌以外に対する免疫力も強化してくれる。一部の医師は“癌免疫療法”として予防的にBCGを接種し続けている。
・BCGを接種した世代としなかった世代を比較したイスラエルの研究では、両者で有意差が認められなかったが、日本やアジア諸国の“結核菌を牛胆汁で弱毒化したワクチン”とは別の株のBCG株だったかもしれない。
・BCGの効果に関しては、最先端の技術で明らかにしていくことが大切な課題だ。


■民族特有の免疫遺伝子特性・HLA
・ウィルスなどの病原体に対する免疫反応にも民族によって違いがある。ヨーロッパではペスト菌に対して抵抗力の強い遺伝子集団の割合が多くなっている。これはヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれる民族特有の遺伝的特性だ。HLAはヒトの体内に病原体が侵入したときに、他の免疫細胞に病原体の情報を伝える役割も担っている。
・HLAは、コロナウィルスの感染リスクや重症度にも影響し、ワクチンの開発にも重要な因子だ。今回、新型コロナウィルスによる被害状況が地域によって大きく異なった理由の一つにHLAも関与している可能性がある。
・A型の血液型のヒトは新型コロナウィルスに約1.5倍かかりやすく、O型のヒトはかかりにくいことが知られている。
・新型コロナウィルスに対する感受性や抵抗性には、Tリンパ球の細胞性免疫、液性免疫のBリンパ球による抗体産生、およびHLAなど、様々な因子が関与している可能性が明らかになった。


【感想】
・ここでは「ポリクロナール抗体」と「モノクロなール抗体」の違いについて述べられており、「ポリクロナール抗体」の方が有効であるらしいということまではわかったが、どのようなときに「ポリクロナール抗体」が現れ、また「モノクローナル抗体」となるのか、またワクチンとどのような関連があるのか、など専門的なことはわからなかった。
・BCGの効果については、まだ十分には解明されていないことがわかった。
・また民族特有の免疫遺伝子特性があり、それが「感染リスクや重症度にも影響し、ワクチン開発にも重要な因子」となっているということだが、どのように影響し、なぜ重要なのかについてはわからなかった。次の《Q&A》を読めばわかることがあるかもしれない。
(2021.1.12)