梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

『「自閉」をひらく 母子関係の発達障害と感覚統合訓練』(つくも幼児教室編・風媒社・1980年)精読・41

《8.予防措置》
・まず、危険防止に配慮しなくてはならない。
◆不必要な道具は片づけてておく。
◆道具は金属製のものではなく、木製、プラスチック製のものにする。
◆子どもが転ぶ可能性のある所には、マットを敷いておく。(階段からの転落に注意する)◆吊り下げる道具はできるだけ床近くまで下ろしておく。
◆道具がこわれたら、すぐに直しておく。
・感覚刺激を与えるときは、刺激の与えすぎにいちばん気をつけなければならない。大ざっぱな時間の目安として、強い刺激なら1回1分、少し弱い刺激でも10分位で休止するとよい。
・エアーズは次のように言っている。(『感覚統合と学習障害』宮前・鎌倉訳、協同医書出版社・昭和53年)
◎感覚刺激は、脳を組織化するのに大きな力を持つと同時に、組織を乱すことに対しても大きな力を持つ可能性がある。感覚の過剰負荷が行われたということは、子供が治療後30分たっても興奮状態が静まらなかったり、環境に対する破壊的アプローチが見られたり、環境からの退行が現れたりというようなことから知ることができる。治療後数分以内に行動がほどよい水準に達しない場合には、治療時間の最後の部分は、ハンモックを旋回させたり大きな治療用ボールを使うなどして、ゆっくりとした前庭刺激を与えたり、触圧を用いたり、関節の弛緩した部分に振動を用いたり、というような抑制刺激を与えることに使われるべきである。刺激を受けるために子どもが寝かされれば、それも子どもの方墳状態を低めるのに役立つ、興奮過剰状態になる子供が、自分の行動をコントロールする助けになる1つの方法は、限られた治療場面に、最小限の道具しか置かないようにすることである。
・活動直後の子どもの反応を観察するだけでなく、その日一日のようすにも注意しておく。とくに平衡感覚刺激を与えた場合は、注意が必要である。
・てんかん発作のある子どもの場合、一部の筋が過緊張になっている場合は特別な配慮が必要となる。感覚刺激が過剰だと発作を起こしやすい状態になる可能性がある。とくに、軽い触覚刺激と平衡感覚刺激は、最も発作を起こしやすい状態を作り出す、とエアーズは警告している。
・感覚刺激の効果は、子どもが幼いほど大きなものであると考えられるが、脳細胞を傷つけるおそれがあるので2歳以下の子どもは振り回さない。
◆カミラ・コリンズの警告
・着地のショックを和らげるようになっていないすべり台やよじのぼる遊具類、トランポリン、でこぼこ道を激しく走る自動車、雪上車、荒い波の上を走る高速モーターボート、悪天候の中を飛ぶ小さな飛行機、ラジオ、テレビ、ステレオ、電気器具の音、空気の振動などは、乳幼児に損傷を引き起こしかねないものがある。
《9.援助活動の終結》
・いろいろな感覚刺激を与えてみて、プラスの反応を示した(鈍すぎる)感覚についてもマイナスの反応を示した(鋭すぎる)感覚についても、ともにゼロの反応を示す(どちらでもない)ようになれば終了である。
・鈍い感覚に対して強い刺激を与えていたら、かえって刺激に慣れてしまって、もっと強烈な刺激でないと満足できなくなるのではないかと思われがちだが、実際はそうではない。鋭い感覚についても、ごく弱い刺激から始めて徐々に刺激を強めていくことによって、マイナスの反応を強く示していた刺激にも次第に慣れ、ちょっとした刺激なら動じなくなる。つまり、正常な反応に近くなるのである。
・刺激に対する両極端の反応が正常化してくるにつれて、子どもの表情は生き生きとして、感情が豊かになってくる。そして問題であった行動障害も次第に軽減されて、ついには解消されるはずである。
・一度反応が正常化しても、しばらくするとまた元の反応に戻ってしまうことがある。その時は、終了した刺激を再び与えるようにする。このためにも、定期的に診断を行うことが必要であろう。(年3回程度)
【感想】
・ここでは、「感覚統合訓練」を行う上での危険予防と終結の条件について述べられている。危険予防では、一般的な事故防止に加えて、発作のある子どもへの配慮、2歳以下の乳幼児に対しては「振り回さない」ことが鉄則であることがよくわかった。また終結の時期は、感覚刺激に対する反応が《正常》になった時であり、《正常》とは「鈍すぎない、鋭すぎない」(どちらでもない)ということであり、その反応をよくよく観察しなければ判断できない、こちらの洞察力が不可欠であることもよくわかった。
・さらに「鈍い感覚に対して強い刺激を与えていたら、かえって刺激に慣れてしまって、もっと強烈な刺激でないと満足できなくなるのではないかと思われがちだが、実際はそうではない。鋭い感覚についても、ごく弱い刺激から始めて徐々に刺激を強めていくことによって、マイナスの反応を強く示していた刺激にも次第に慣れ、ちょっとした刺激なら動じなくなる。つまり、正常な反応に近くなるのである。」という指摘は、きわめて重要である。こちらの方が強い刺激を与えたくない、嫌がる刺激を与えたくない、と思えば思うほど、「感覚障害」は軽減されずに固定してしまうということである。
・さて、次章からはいよいよ「第3部 実践」である。期待を込めて読み進みたい。
(2016.5.11)