梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

『「自閉」をひらく 母子関係の発達障害と感覚統合訓練』(つくも幼児教室編・風媒社・1980)精読・33

《2.感覚回路についての一般的原則》(デラカート)
A.鈍すぎる感覚の場合
①危険な場所や危ない物、有毒など危険に対して無防備なので、事故に気をつける。
②いろいろな強い刺激を与えて感覚を目覚めさせる。
③強い刺激からだんだん弱い刺激へと進める。
④与えっぱなしにして慣れをおこさないように気をつける。
⑤他の刺激と同時に与えない。純粋な形で与える。
⑥その刺激がなにかが子どもにはっきりわかるように、ことばで教える。
⑦ひとつひとつの刺激に反応できるようになったら、いきつかの異なる刺激と刺激を区別できるようにする。
・味覚が鈍すぎる場合の例
①薬、洗剤、灯油などを子どもの周囲から取り除く。
②それぞれの味が一番感じやすい部分に刺激を与える。(苦みなら舌の奥、酸味は舌の両端、塩味・甘味は舌の先端)
③訓練は苦みから始める。
1.苦みの強い汁を数滴(④と⑤)下の奥にたらし、「にがいよ」と教える(⑥)。苦みのある汁だけを約2週間、毎日4~8回与え続ける。
2.次に酸味に移る。ピクルスの汁がよい。舌の両端に数滴たらし、ピクルスの容器を子どもに見せ、においをかがせる。「すっぱいね、ピクルスだよ」と教える。2週間続ける。
3.同じようにして、塩味を舌の先端に。
4.最後に、甘味を舌の先端に。
それがすんだら、再び苦味から始める。汁は必ず指示された部分にたらすこと。こうして味がわかるようになったら、ある日は甘味、ある日は苦味というように、1日ごとに味を変える。さらに進歩したら、同じ日のうちにいろいろな味を与えるようにする(⑦)


B.鋭すぎる感覚の場合
◆援助の原則
①恐怖や苦痛を与えないように、強い刺激を環境から取り除く。
②どうしても避けられない刺激もあるので、逃げ場を用意する。
③子どもがお気に入りの刺激を、子ども自身に変わっておとなが与えてあげるようにする。(他人から与えられる刺激に慣れる第一歩となる)
④弱い刺激から与え始め、徐々に強い刺激に慣れさせていく。
⑤その刺激が何であるかを言葉で教えるようにする。
⑥感覚の鋭さを利用して、知的活動をさせる。
◆視覚が鋭すぎる場合
①②日射しの強いときの外出、夏の晴れた日のドライブ、海岸は避けた方がよい。サングラスをかけさせるような工夫が必要である。
③子どもが気に入っている刺激を、おとなが与えてあげる。子どもがコマを回すことが好きならば、保育者が「ホラ、コマを回すよ」「あ、止まった」などといいながらコマを回してみせる(④)。
《その他の活動例》・にらめっこ ・イナイイナイバー ・カラートンネルに入る ・シャボン玉を吹いてみせる ・かくれんぼ ・サングラスを使う ・鏡に顔や物を映してみせる。鏡を見て百面相 ・コマを回してみせる ・縞もようのボールを転がしてみせる
・虫めがねでいろいろな物をみせる(万華鏡) ・懐中電灯で部屋のあちこちを照らしてみせる ・物の輪郭を手で触らせてはっきり見させる ・光と陰のはっきりしたものを見せる(蛍光塗料の絵などを夜、見せる ・暗い部屋でペンライトの光を目で追わせる
・暗い部屋で豆電球をつける ・何色か色のついた豆電球を見せる ・クリスマス用飾り・ミラーボール ・暗い部屋でフラッシュをたく
《子どもに自動的にやらせる活動》・押し入れやダンボール箱など、暗い場所や狭い場所に入る ・遊園地のびっくりハウスやミラー館の中に入る ・すべり台、ジャングルジム*活動例のうち、ミラーボールやフラッシュなどは、相当強い刺激なので、鈍すぎる視覚の障害をもつ場合の遊びとして利用することもできる。
*また、最初は手伝ってあげながら、絵パズルや図形模写など複雑な視覚作業をさせる(⑥)「ぼうが一本あったとさ」などの絵描き歌は視覚と聴覚の両方として考えられ、おとなと一緒に楽しめる活動である。
◆聴覚が鋭すぎる場合
・静かな生活環境を用意する。(吸音性の強い建材の部屋、寝室の工夫)
・騒がしい場所への外出を避ける。
・大きな音、不意の音が避けられない場合には、子どもに予告しておく。
・大声を出さない。最も大切な訓練は、ささやくことである。
《聴覚に対する刺激の例》(鈍すぎる場合、混乱している場合も含む)
①ささやき声で話す、②子守歌などを歌ってきかせる、③口笛を吹く、④耳をふさいだり離したりする、⑤風呂場やホールなどで歌をうたう、⑥オルゴールをきかせる、⑦ブーブークッションで遊ぶ、⑧聴診器で心臓や脈、内臓の音をきかせる、⑨竹でっぽうで遊ぶ、⑩ビニールトンカチで追いかけっこをする、⑪オルゴール、めざまし時計などを隠して探させる、⑫でんわごっこで遊ぶ、⑬笛、太鼓などの楽器。音の出るオモチャで遊ぶ、⑭ヘッドホーンを使って音楽や自分の声をきかせる。⑮トランシーバーで遊ぶ、⑯洗面器や缶を頭の上で叩く、⑰トロンボーンに頭を突っ込んで吹いてもらう。
・打楽器類は一般に子どもたちに喜ばれるようである。聴覚が鋭い子どもは、音楽に対する好みも激しい、メロディー楽器お方が喜ぶかもしれない。
・レコードやテープも、子どもが好きな曲を選んで、聴かせてあげるとよい。
・テープにいろいろな物音を吹き込んで聴かせるのもよい。自分の声をきかせると喜ぶ子どもも多い。
・トロンボーンを使った例は、かなりの振動も伝わってくる。子どもたちに人気のある遊びである。


C.混乱した感覚の場合
《デラカートによる一般的原則》
①自分の内部からの刺激か外部からの刺激かまぎらわしいので、常時持続している刺激は子どもの身近な所から取り除くようにする。
②内部からの刺激と外部からのものとを区別できるようにすることが最初の目標になる。刺激を与えながら、その刺激が何か、どこから来た刺激かをことばや他の手段を用いてわからせるようにする。
③強くて、しかも子どもにとって抵抗の少ない刺激から始める。
④内部からの刺激と外部からの刺激を区別できるようになったら、外部からの異なる刺激同士を区別できるようにする。
⑤どんな感覚障害でも根気強く援助しなくてはならないが、混乱した感覚の場合は特に、繰り返し教えることが大切である。
・家の中にはいろいろな臭いが混じっている。消臭剤(芳香剤ではない)を使って。家の中の臭いを消す。
・嗅覚の訓練の場合、刺激を純粋な形で与えるには充分注意深くしなければならない。(母の化粧品、歯みがき、保育者の体臭も刺激の一つだからである)
・訓練は、毎朝種類を変えて1種類ずつ、強烈でたがいにはっきり区別のつくにおいのする液(ひげそりローション、酢、石油、アンモニア、香水など)を、1,2滴子どものからだと衣服につける。においをつける前に、それをはっきり子どもに見せ「きょうは××のにおいよ」と言ってからつける。子どもが進歩するにつれて、あまり強くない、すぐには区別のつきにくいにおいに変えていく。数週間それを続けたら、こんどは「その日のにおい」と別のいくつかのにおいをかぎ分けられるようにする。「その日のにおい」はやはり、強うものから弱いものへ変えていく。それができるようになったら、「その日のにおい」というやり方をやめて、毎日数種類もにおいをかわるがわるかがせて、目をつぶったまま何のにおいかを当てられるようにする。


*あるひとつの感覚に対する刺激をとってみても、その種類・リズム・強さによって、あそびは多種多様である。特に感覚が鈍すぎる場合には、なるべく強い刺激を与える必要がある。活動の時間は、1回の時間を長くするよりも、回数を多く行ったほうがよい。
・エアーズも「毎日治療を行うことは、週1度治療を行うことははるかに効果的である」と述べている。
・特に混乱した感覚障害をもつ子どもには、繰り返しが重要である。
・鈍すぎる感覚に対して慣れっこを起こさせないために、常時与えっぱなしにしないようにしなくてはならない、
・それでは、それぞれの活動の継続時間と回数を総合して、全体としてどれくらいの量が必要なにだろうか。
*田口恒夫氏は『言語発達の臨床第1集』の中で「総計1000時間ぐらいを目標に、毎日毎日、喜ぶかぎり続けてください。子どもにとって楽しいだけでなく、やっているお母さん自身もいっしょになって喜んで、楽しみながらできるようにくふうすることが大切です」と述べているが、私たちの援助もそのくらいの時間をめざして、根気よく毎日繰り返し行っていこうと考えている。
【感想】
・ここでは、デラカートに従って、「鈍すぎる感覚の場合」「鋭すぎる感覚の場合」「混乱した感覚の場合」、どのように対応すればよいか、という「一般的原則」について、わかりやすく具体的に解説されている。その「活動例」が図示され、さらに「絵かきうた」の楽譜まで添えられており、大いに参考になった。
・「感覚統合訓練」の実際とは《遊び》に他ならず、子どもにとって「楽しい」と感じなければ意味がない(効果が上がらない)ということもよくわかった。また、一般の「療育」「訓練」では、ほとんど行われていないと思われる「味覚」や「嗅覚」の活動例も紹介されており、極めて有益であった。また、そうした活動を「毎日、小刻みに」行い、トータルとしては1千時間(1日1時間として約3年間分)をめざすという考えも、田口理論と全く同様で「一朝一夕で問題は解決しない」「決してあきらめてはいけない」ということをあらためて確認することができた。
・著者らが最も重視しているのは「平衡感覚」「固有感覚」「触覚(皮膚感覚)」だとすれば、まだ、ここまでの内容は「序の口」に過ぎず、これから、本格的な「真髄」となる方法が紹介されるのだろう。期待を込めて読み進みたい。
(2016.4.23)