梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「高群逸枝全集 第一巻 母系制の研究」(理論社・1966年)通読・5

第四章 本書の方法  
【要点】
 (略・私は文献中心の方法を通して系譜研究の四方法を採った)
その各方法について主旨を次に述べる。
⑴多祖の研究 我が国古代系譜の特徴とし一氏多祖の現象がある。同一の氏に属し、同一の氏名をもち、同一の居所、同一の職に従う氏人が、各自相異なる数祖を奉じて出自としている事情がこれである。通例としては、同氏族は同祖宗より出た者でなければならず、同氏族にして二祖を戴いているなどということがあれば、その系譜はすこぶるあやしいと見なければいけないが、姓氏録中二祖はおろか三祖、五祖等を戴く氏が驚くべき割合を占めている。これはこの現象の根底に、母系遺存の実体が横たわっていることの証左であって、この点に多祖研究は成り立つのである。
⑵複氏の研究  古代系譜に多く見る複式の氏は、物部弓削氏の如く、上に父系氏称を冠し、下に母系氏称を付するを以て特徴としている。あたかも先の多祖氏が出自に父系を称し、氏称に母系を保存しているのと同じ理由に依る二重表現の様式である。これの究明によって当時の母系遺存を摘発しうるとなすのである。
⑶諸姓の研究 諸姓混乱の相を研究して、元系母氏を開出する方法である。例えば田辺史氏の如きは、諸蕃姓を遺存ままにて崇神帝裔を称している。この如き例は枚挙にいとまが無い。
⑷賜氏姓の研究 賜氏姓のことは大化の改新後の若干期間盛行を見たもので、これによりかつて異種の族なりし者が堂々皇別氏に変わり、皇別氏なりし者が神別氏に改まる等の変調を生じている。その理由として従来母氏に付きたるが父氏に移らんと請う者が多く、この点に賜氏姓研究の意義も生ずるのである。
 この方法は、古代系譜の根底に潜む母系制遺存の事実を摘発すべき方法として比較的適確であり、この方法によれば表面的な記載を通して裏面の真相に到達することも必ずしも至難ではない。


【感想】
 ここで著者は母系制研究の方法として、文献研究における四つの方法を提示している。①多祖の研究、②複氏の研究、③諸姓の研究、④賜氏姓の研究、である。それらがそれぞれどのようなものであるか、主旨の説明もあるが、私はまだその詳細(差異)を理解できない。次からは、いよいよ本論が展開されるので、この四点を念頭に置きながら、それらを読み進めることでより具体的なことが分かるかもしれない。楽しみである。
(2019.10.20)