梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

駅前のブログ記事

駅前(ムラゴンブログ全体)
  • ある店舗の話

     駅前にあった鯛焼き店が閉じ、かわりに、(全国に店舗を持つ有名な)貴金属の買い取り業者が店を出した。その直後から、店の名前を染め抜いた半被を着た男たちが、駅の西口・東口付近にたむろして、通行人にティッシュを配る姿が目立ち始めた。男たちは猫なで声で年配者に近づき、ティッシュを差し出しながら、「テレカ... 続きをみる

  • 小説・「黄昏のビギン」・第5章・《噴水》

     この前は、私よりシロの足取りの方が力強かったが、今回は違う。いつもの散歩コースをあっという間に通り抜け、三時ピタリ、シロと私は駅前の広場に到着した。(いつもの所、いつもの所・・・)はやる気持ちをおさえて噴水のベンチを見ると、花形親子がにこやかな笑みを浮かべてたたずんでいた。  「ごぶさたしました... 続きをみる

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  • 小説・「黄昏のビギン」・第2章・《未練》

     やはり、私は二人のことが気にかかってしまうのだ。老婆と中年の女は親子だろうか。嫁と姑だろうか。どことなく「気品」がただよい、旧家の母と娘のようにも感じる。「わけあり」と直感したのも、およそ車椅子の操作を誤るような二人には見えなかったからである。とっさのことで、二人を詳細に観察する余裕はなかったが... 続きをみる

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  • 小説・「黄昏のビギン」・第1章・《出会い》

     妻は二人の娘を連れて家を出た。「身から出た錆」と言おうか、私は、それを当然の結果として、受け止めざるを得なかった。思えば、「仕事」と称して、私自身が「家出」を繰り返し、家族をかえりみることなど、ほとんどなかったのだから。  家には、飼い犬シロと私だけが残された。「家出」をしているときでも、なぜか... 続きをみる

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