梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「日本社会」の《崩壊》

 「日本社会」は確実に崩壊しつつある。戦前の「醇風美俗」といった生活意識はもとより、戦後の息吹に満ちた「民主主義」もほとんど消失したと思われる。それはそれでよいのかもしれない。いずれも「日本社会」が貧しかった時代の産物だからである。当時の人々が夢見た「豊かな社会」「便利な生活」は実現した。しかし、何か物足りない。何かが欠けている。豊かさ、便利さだけでは満足できない「何か」があるのも事実である。現代の人々は、それを「絆」と呼んでいる。家族の絆、仲間の絆、地域の絆・・・、それらもまた、貧しかった時代の産物なのであろうか。かつては「献身」という言葉もあったが、今では死語に等しい。人々は、手にした豊かさ、便利さを守ろうとして、終わりのない競争を繰り返している。
 そんな折り、自然は容赦なく鉄槌を下す。巨大地震、津波、集中豪雨、竜巻等々に加え、人工物である放射能までもが人々に襲いかかる有様で、豊かさ、便利さが、かえって災いをもたらす禍根になっているかもしれない。
 「日本社会」は確実に崩壊しつつある。これからどうすればいいのか。とうに古稀を過ぎた私にとっては、自分自身が崩壊すればよいことだから、つゆほどの後悔も感じないが、未来の世代にとっては喫緊の課題であろう。終わりのない競争を繰り返し、敗者の屍を乗り越えて前に進むか、それともしばらく立ち止まって周囲を見わたすか、あるいは過去をふり返り、忘れ去られた「何か」(豊かさや便利さだけでは得られない宝物)を取り戻すか、それは各人が考えることである。(2017.11.2)