梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大関・貴景勝の「武士道精神」

 一昨日(3月27日)、大相撲の関脇・貴景勝は大関昇進を伝えに来た使者に「武士道精神を重んじ・・・」という口上で応えたという。その意味を彼自身がどの程度理解しているかは判らないが、ずいぶんと思い切った「物言い」だと、私は思う。
 武士道を表した「葉隠」で山本常朝は「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」と述べているが、「死ぬ事」とは《死んだ気になって》というほどの意味らしい。私は、文字通り「死ぬ事」とは《死ぬこと》だと思う。それを貴景勝に即して言えば、「大関になったら後がない」ということである。つまり「後は、上を目指すだけ」「下に落ちることは許されない」ということだ。具体的に言えば、今後はつねに「勝ち越す」ことが必要であり、万一、負け越した場合には「直ちに引退」しなければならない、ということである。
 大関・貴景勝は弱冠22歳、パット咲いてパット散るには恰好の年頃である。久しぶりに武士道精神を重んじた「相撲道」の引き際を見てみたい。とは言うものの、老醜に満ちたこちらの寿命が尽きる方が先であることはたしかである。
(2019.3.29)