梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

乳幼児の育て方・Ⅱ・赤ちゃんは声を出していますか

【3ヶ月頃から12ヶ月頃まで】
 赤ちゃんは声を出していますか。それはどんな時ですか。どんな声ですか。
 生後まもない頃の赤ちゃんは、泣くときに声を出しています。それは「声を出そう」と思って出しているのではありません。「反射的」に、泣くときに付随して「声が出てしまう」のです。
 その「泣き声」もはじめは「オギャ-、オギャー」という単調なものです。しかし、その「泣き声」は日がたつにつれて、しだいに「変化」していきます。そして,お母さんはその「泣き声」を聞いただけで、「どうして泣いているのか」ある程度の察しがつくようになります。「ああ、今はおむつがぬれているんだな」「今は、おなかがすいたんだな」「どこかいたいのかな。いつもと泣き声がちがうぞ」というように。このことの中には、きわめて重要な意味がふくまれています。どうしてでしょうか。つまり、それまでの赤ちゃんの「泣き声」は、単にお母さんを呼び寄せるためのサインに過ぎなかったのですが、それが変化することによって「○○だから来てちょうだい」というように、新たな意味が加えられるようになってきたのです。赤ちゃんとお母さんの意思の疎通がよりスムーズにできるようになる基盤ができはじめてきたのです。もちろん、赤ちゃんの方はそんなことはわかりません。しかし、お母さんの方に「赤ちゃんの泣き声を聞き分ける」態勢ができはじめたのです。つまり、赤ちゃんの気持ちがよくわかってきたのです。そのことによって、赤ちゃんとお母さんのやりとり(依存と世話)が的を得たものになり、お母さんには「自信」が、赤ちゃんにはお母さんに対する「愛着心」が高まります。
 泣き声の変化、それは赤ちゃんが自分の声をある目的のために、より的確に使いこなせるようになったことを意味します。それは、声を使ってやりとりをするという、人間の言語活動の第一歩をマスターしたことになるのです。
 また、その頃(生後3ヶ月頃)になると、赤ちゃんは泣くとき以外にも声を出すようになります。おっぱいを飲み終わってとてもいい気持ちの時など、「アー」「ウー」「オックン」などというように声を出していることがあります。これは「喃語」といって、赤ちゃんが将来話せるようになるための重要な土台になるのです。つまり、喃語によって「声の出し方」や「ことばの音の作り方」を練習しているのです。口の開き方や口の中の器官を動かすことによって、いろいろな音が出ることを知ります。その音を自分の耳で聞いて楽しんでいるのです。もちろんはじめは偶然のできごとなのですが、赤ちゃんが「アー」「ウー」などと声を出した時は、お母さんも黙っていません。にこにこしてじっと赤ちゃんの顔を見つめ、「そうなの、お話してるの、フーン」などとうなずきながら、「アーアー」などと赤ちゃんが出している声のまねをしたりします。そのことによって、赤ちゃんは「声を出すこと」と「楽しいお母さんとのやりとり」が結びつくことを知り、ますます声を出すようになっていきます。
 【さて、赤ちゃんの「喃語」は、「自分の出した声を自分で聞く」ということが前提となって発達していきます。したがって聴覚に障害のある赤ちゃんは「喃語」がとても少ないか、あってもすぐに消えてしまうか、活発にならずに細々と続いていくかのどれかになることが多いのではないか、と考えられます。また、それゆえ、喃語の状態で赤ちゃんのきこえの状態を推測することもできます。しかし、耳のきこえが普通であっても、喃語がなかなか活発にならない赤ちゃんもいるので、単純に決めることはできません。赤ちゃんは声を出していたのに、お母さんがそれに気づかず「楽しい経験」と結びつかなかった例も意外に多いのです。聴覚に障害があっても、「喃語」は本来あるのですから大事に育てましょう。】  
 赤ちゃんは声を出していますか。それはどんな時ですか。どんな声ですか。
 お母さんを呼ぶ時、とても気持ちのいい時、うれしい時、おもしろい時、笑う時、声を出している赤ちゃんは安心です。それは、声を出すことによって、ある目的を達しようとしていることのあらわれであり、赤ちゃんは「声を出そう」と思って出しているからです。それはもう、「話すことの第一歩」を歩みはじめたことになるのです。
 赤ちゃんの声は「どんな声」ですか。声の高さと大きさに注意しましょう。【聴覚に障害のある赤ちゃんの場合には「自分の出した声を自分で聞く」ことがうまくできないので、声を出すことが少なくなりますが、それでも全く出ないということはありません。その声を聞いて、ある程度の「きこえの状態」を推測することができます。沈んだ声、低すぎる声、高すぎる声、大きすぎる声、小さすぎる声などの時は、お医者さんに相談する必要があります。】