梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

乳幼児の育て方・Ⅱ・赤ちゃんと遊びましょう・Ⅰ

【3ヶ月頃から12ヶ月頃まで】
 さあ、おせんたくはすみましたか。これから赤ちゃんと遊ぶことにしましょう。まず、心の中をからっぽにして下さい。家の仕事のことは忘れて下さい。これから30分間は、赤ちゃんと遊ぶこと「だけ」を「考えて」下さい。そして、赤ちゃんと遊ぶこと「だけ」を「して」下さい。
 赤ちゃんは何をしているかな。目をあけています。腕をバタバタさせています。時々、自分の手をながめたり、こぶしを口に入れようとしたりしています。チャンスです。
 赤ちゃんの名前を「そっと」よびましょう。どうですか。聞こえましたか。もう少し近づいてみましょう。もう一度、そっと名前をよんで下さい。どうですか。聞こえませんか。もう少し声を大きくしてみて下さい。
 赤ちゃんのそばにすわりましょう。そっと足にさわりましょう。あ、気がついた。顔を近づけましょう。「○○ちゃん!ママよ」。どうですか。ニッコリわらってくれましたか。
 お母さんの人差し指を赤ちゃんの手に近づけて下さい。にぎるかな。にぎったら。軽く振ってみましょう。「イチニ、イチニ、イチニ」。うれしそうですか。
 赤ちゃんを「抱っこ」しましょう。正面に向かい合って、赤ちゃんのわきの下を支え、「たっち」させましょう。「お母さんの顔を見ますか」。足を動かして床をけりますか。「トン、トン、トン」。赤ちゃんを軽くジャンプさせましょう。わらいますか。声を出しますか。わらったら抱きしめましょう。声を出したら抱きしめましょう。
 赤ちゃんと「にらめっこ」をしましょう。からだをゆらしながら「アップップ」「アップップ」。顔を近づけましょう。わらいますか。声を出しますか。赤ちゃんの目はキラキラと光っていますか。笑ったら、声を出したら、「何回も」繰り返して下さい。「腕が痛くなるまで」繰り返してください。そして、「抱きしめましょう」。
 赤ちゃんの顔を正面から見つめましょう。お母さんの舌を出したり引っ込めたりして下さい。赤ちゃんはじーっと見ていますか。赤ちゃんの口元は動きますか。お母さんの目をパチパチさせて下さい。赤ちゃんもまばたきをしましたか。ほっぺたをふくらませて指で押しましょう。音が出ました。聞こえたかな。
 赤ちゃんをお母さんのひざに、後ろ向きにすわらせましょう。赤ちゃんの両手を持って、たたいて下さい。「パチ、パチ、パチ」「パチ、パチ、パチ」。赤ちゃんはうれしそうですか。うれしそうだったら何回も繰り返して下さい。「パチ、パチ、パチ」、赤ちゃんの耳元で言ってみましょう。両手をたたきながら「パチ、パチ、パチ」。赤ちゃんは声を出しましたか。「アー、アー、アー」、声が出なくても、赤ちゃんがうれしそうだったら続けましょう。そして、お母さんの手を離すのです。耳元で「パチ、パチ、パチ」。どうですか。「赤ちゃんは自分で手をたたきましたか」。
 さあ、もうずいぶん遊びました。赤ちゃんの正面から話しかけましょう。「もう、終わりね。バイバイ」。赤ちゃんを抱きしめて「チュー」をして下さい。  
 赤ちゃんを遊ぶ前の状態にもどして下さい。「○○ちゃん、バイバイ」といって手を振りましょう。どうですか。赤ちゃんの表情を見て下さい。もっと、あそびたいよー、そういっているようですか。それなら「大成功」です。 
 最後のしめくくりをしましょう。お母さんは赤ちゃんのかげにかくれて、突然顔を見せます。「イナイイナイ、バー!」、赤ちゃんの顔を見て下さい。うれしそうですか。何度でも繰り返して下さい。お母さんがかくれたとき、「赤ちゃんは声を出しますか」。「声を出したら必ず顔を見せて下さい」。にっこりして下さい。「ハーイ」と返事をしてあげて下さい。
 赤ちゃんは、もう「ねんね」の時間のようです。「抱っこ」をしましょう。「添い寝」をしましょう。そして、からだを静かにゆすりながら「子守歌」をうたってあげましょう。  
 第一段階の遊びで最も大切なことは、「お母さんと遊ぶことが一番おもしろく、一番たのしいという気持ちにさせること」です。赤ちゃんは、生後1年間でさまざまな物事を知り、おぼえていきますが、その中でも「お母さん」(人間)は特別興味深く、他の事物に比べて「ずばぬけて」おもしろいものだ、ということを学ぶのです。抱っこやおんぶをしてもらいながら、お母さんの「顔」をいじったり「髪の毛」をひっぱったりします。買ってもらったおもちゃはすぐあきてしまい、お母さんの財布や化粧道具ばかりを、いじりたがったりします。こうした傾向は、すでにお母さんの存在を他の事物と違って「特別なもの」として感じていることの証拠であり、とても大切なことなのです。したがって、第一段階の遊びによって、赤ちゃんがお母さんを呼ぶことがますます増え、お母さんの仕事をする時間がますます少なくなるようになった時、そのねらいは達成されたことになります。