梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

乳幼児の育て方・Ⅳ・指を動かす遊びをしましょう

【2歳頃から3歳頃まで】 
 人間が他の動物に比べて決定的に異なることは「安定して二本足で歩ける」ことだといわれていますが、そのことによって人間は両手(前足)を自由に使いこなすことができるようになりました。火を使ったり、物(道具)を作ったり、絵や記号を描いたりすることができるのも、この手を自由に動かすことができるからです。その手の中でも、とりわけ十本の指を器用に動かせるということが、「つまむ」「はじく」「すくう」「こねる」「まるめる」「やぶく」「切る」「はめる」などといった複雑で微細な作業を可能にしています。しかも、その作業は単に手や指の活動だけではなく、「見ること」「聞くこと」「感じること」といった感覚器官と密接に結びついており、それが人間のいろいろな活動をよりたしかなものとし、ひいては「考える」活動の大きな手助けとなっているわけです。
 たとえば「積み木遊び」活動を見てみると、そこには「持つ」「並べる」「のせる」「はめる」といった手の活動を通して、「形を見分ける」「形を組み立てて、ある事物に見立てる」(想像・イメージ化)といった認識活動が深められていきます。また、その際の微妙な指の動かし方によって「注意力」「集中力」「持続力」などもやしなわれるでしょう。
 そんなわけで、今、お子さんの手や指がその程度器用に動かせるかを見ることは、大切なことです。通常、赤ちゃんの「手の動き」がどのように発達していくかを見てみますと、生後間もなく一番初めにできることは「握る」ということです。手のひらにものをさわらせると、それを握ろうとします。しかし、まだ指の動きは完全ではなく、手のひら全体を開いたり閉じたりする程度で、握る時間も長くはありません。生後3か月くらいになると、手を口に持っていったり、腕を振りまわしたりすることが多くなり、「握る」ことができる時間(持続力)も長くなります。4か月頃になると、自分から手を伸ばして「つかむ」「ひっぱる」「いじる」ということができるようになり、赤ちゃんの興味・関心をより豊かにしていくための大きな手助けとなります。また、「両手の指をからませる」ようなこともできるようになります。6か月を過ぎると、物と物を両手で「打ち合わす」、片手から片手へ「持ちかえる」というような両手のバランスのとれた活動が生じてきます。さらに、8か月頃になると、指の動きは複雑さを増し、テレビのスイッチ、カギ、食器などの日常品を「いじったり」、床に落ちている小さな物を「拾ったり」して遊ぶようになります。ハイハイしながら、おとなには気がつかないほどの小さな物でも目ざとく見つけていじっている姿がよく見られますが、そのような活動を通して「細かい物を見分ける力」「集中力」などが着実にやしなわれていくのです。1歳のお誕生日頃には、物の使い方をふまえた活動ができるようになります。「ふたの開け閉め」「鉛筆のなぐりがき」などがそれです。これは、道具の機能や目的を知り、それに応じた使い方をするという意味で、とても大切なことです。立って歩けるようになると、腕全体の力も増し「戸の開け閉め」、おもちゃを「押したり」「引っぱったり」することができるようになります。また、2歳頃には指の器用さはいっそうたしかなものとなり、コップからコップへ「水を移すこと」、積み木を「並べること」、物を紙で「包むこと」などができるようになります。2歳半を過ぎると不完全ながら「はさみで切る」もするようになり、3歳前後には積み木でトンネルを「作ったり」、のりをつけて「はったり」することができるようになります。また、「描く」こともしっかりしてきて「○や簡単な顔」を描けるようになります。
 このような発達過程をたどりながら、子どもの「見る力」と「する力」は着実に結びつき、それが「考える力」「ことばによる想像力」の大きな土台となるのです。また、指の動きを見ることは、体の末端部分の運動機能を見ることでもあり、「話す」ための器官である唇や舌、口蓋がスムーズに動かせるかを測るバロメーターにもなります。
 したがって、「指の動き」は、現在のお子さんの発達段階を集約的にあらわしているといえましょう。またそれゆえ、逆に「指の動き」を活発で的確なものにすることによって、お子さんの成長・発達をより着実に促すことができるわけです。
 聴覚に障害のあるお子さんの場合には、「見ること」と「聞くこと」を密接に結びつけることが必要であり、さらにそれと「指を動かすこと」との結びつきを図ることが大切です。今まで述べたような様々な活動に加えて、「オルガン」「エレクトーン」「鍵盤ハーモニカ」などにも興味を示し、楽器をひけるようにすることも、たいへん大事なことなのです。