梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

乳幼児の育て方・Ⅳ・お子さんと遊びましょう・Ⅳ

【2歳頃から3歳頃まで】
 お子さんと遊ぶということは、「お子さんを遊ばせる」ことではありません。お子さんのために家事の仕事をしないで「お子さんを見守っている」ことでもありません。文字通り、お子さんと「一緒に何かをする」ことなのです。その時、お母さんはもうお母さんではなくなってしまうことが必要です。つまり、お母さんとしての役割は捨て、お子さんと同じレベル、同じ気持ちで遊ぶのです。
 お子さんと公園に行きました。すべり台があります。ブランコがあります。砂場があります。まず、お母さんからはじめるのです。「やってごらん」という前に、お母さんがやってみるのです。それが、お子さんと遊ぶ時の鉄則です。なぜでしょうか。すいすいと階段をのぼり、サッと滑り降りたけれど勢い余って尻もちをついたお母さん、ブランコをビュンビュンこいでいるお母さん、砂まみれになってトンネルを掘っているお母さん、そんなお母さんの姿を見て、お子さんは目を見張るでしょう。いつものお母さんではないお母さんがそこにいるのです。お子さんは、夢中になってお母さんのすることをマネしはじめるに違いありません。「ボク(ワタシ)もやる」「ボク(ワタシ)にもやらせて」、あとは簡単です。お子さんがそれをできるように手助けをしてあげればよいのです。
 このころのお子さんにとって大切なことは、「歌を歌うこと」「絵を描くこと」「ごっこ遊び」「友だちの中で遊ぶこと」です。そして、どの遊びでも今述べたように「まずお母さんがやってみせる」ことが必要なのです。お子さんがそれを上手にできるようになるためには、「それをやりたい」「それをやることがおもしろくてしょうがない」という気持ちが育たなければなりません。それにはお母さんのお手本が必要であり、また全面的な手助けが必要なのです。はじめから上手にできることはめったにありません。何回も何回も失敗を繰り返し、次第に上手にやるコツをおぼえていくのです。お子さんが上手にできなくても、やろうとしたことをほめてあげましょう。
 ①歌は部分からおぼえます
 お子さんの前で体を動かしリズムをとりながら童謡を歌って聞かせましょう。テレビマンガの主題歌でもけっっこうです。お子さんはニコニコして聞いていますか。体を動かしながら(リズムをとりながら)聞いていますか。それだけでいいのです。お母さんの歌の一部分は必ずお子さんの記憶の中に残るでしょう。そして、いつのまにか、そこだけお母さんと一緒に身体表現をしたり、歌ったりすることができるようになるでしょう。
 ②絵はお母さんの絵がお手本です
 お母さんがだまって絵を描き始めれば、お子さんはそれをのぞき込んでくるでしょう。「ねこ」「でんしゃ」「おうち」、何でもかまいません。お子さんにわかるように、単純な線だけで描いてみせるのです。お子さんも描きたいといってせがむでしょう。お子さんがどんな絵を描いてもほめてあげましょう。お子さんが描いた○の中に、お母さんが目や鼻を描き入れてあげると、とても喜ぶものです。終わったら、その紙に今日の日付を書き込んでおきましょう。お子さんの変化がはっきりとわかるようになります。
 ③ごっこ遊びは人形で
 お子さんの大好きな人形(人形でなくてもよいのです)をお母さんが「抱っこ」します。そして、その手や足をちょっと動かしてみるのです。「オーイ、○○チャン」「○○チャン、あそびましょ」、お子さんはニコニコして近づいて来ましたか。{○○チャン、コンニチワ」、人形にあいさつをさせます。お子さんもあいさつで応えましたか。「○○チャン、抱っこしてよ」、思いつくままに、お子さんの大好きな人形のつもりになって、お母さんが働きかけるのです。ごっこ遊びの重要さは、この「つもりになる」ということです。言い換えれば「想像の世界」に入るということです。聴覚障害のあるお子さんにとっては、この「想像の世界に入る」ということが、特に大切です。単なる「空想」ではなく、周囲の人たちの「気持ち」を「想像したり、推量したり」することへと結びついて発達していくからです。今、あの人は自分のことをどう思っているか、を「想像」によって察知できることが、勘違いによるトラブルを防ぐ唯一の方法だからです。それはコミュニケーションの土台として、最も大切なことだと思います。
 ④友だち遊びはあせらずに
 まだお母さんとの遊びがうまくできないのに、友だちとうまく遊べることはありません。友だちに近づこうしない、友だちの中に入るとすぐに乱暴する、相手にしてもらえない、まったく勝手なことをしておかまいなし、こんな場合はまだお母さんとの遊びが十分ではないのです。たとえお子さんが友だちの中へ入りたがっても、それはお母さんと二人きりでいることから逃げだそうとしているのかもしれません。お母さんとの遊びも大好きだけど、友だちと遊ぶ方がもっとおもしろい、という気持ち(状態)を育てることが大切です。