梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

私の戦後70年・祖母の死

 昭和28年元旦、その日は快晴であったが、私の心は、どんよりと曇っていた。前日の大晦日、同居していた祖母が、当時大流行していたインフルエンザで、息を引き取ったからである。母はすでに亡く、父と祖母の三人で、八畳一間の「間借り生活」をしている時であった。祖母は72歳、10日間ほど床についた後の、あっという間の臨終であった。日々の看病(下の世話)は、(7歳の)私が担当する。溲瓶の色が黄色から橙色に変わると、まもなく祖母は昏睡状態に・・・。死を看取った父は、いたって平静、祖母の額に手を当てて「まだ温かい」などと呟いていた。そして元日、私は祖母の死を知らせるため、親類宅に走った。その途中、門松を飾った玄関に、一人の老爺が立ち、空を見上げて曰く「ああ、いい正月だ」。私は、泣きたい気持ちを抑えながら、その場を通り過ぎたのだった。(2015.4,2)