梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

私の戦後70年・新聞紙

 祖母宅の押し入れには、古い新聞紙が捨てられずに収められていた。私は、それを引っ張り出して、画用紙代わりに絵を描いたり、ちぎったり、まるめたりして遊ぶのが好きだった。祖母は叱りもせず眺めていたが、時には、「折り紙」のようにして、ヒコーキや二艘舟、紙財布などを作ってくれることもあった。5月の節句には、全紙を使ってカブトを折ってくれた。私はそれを被って、チャンバラごっこを楽しんだことを憶えている。新聞の記事に目を向けることもあった。まだ字は読めなかったので、ほとんど「軍艦」「戦闘機」「戦車」などの写真を辿っていたが、その脇に大きな赤い活字で「ソ聯」と記されていたことが、今でも脳裏に焼き付いている。「ソ聯」とは何だろう? 子供心にも不気味に感じたが、その見出しの背後には〈全軍将兵に告ぐ ソ聯遂に鋒を執って皇国に冠す
名分如何に粉飾すと雖も大東亜を侵略制覇せんとする野望歴然たり 事ここに至る又何をか言はん、断乎神州護持の聖戦を戦い抜かんのみ 仮令草を喰み土を囓り野に伏するとも断じて戦ふところ死中自ら活あるを信ず〉(陸軍大臣布告)といった大人の思いが秘められていたのだろう。それは後年知ったことである。(2015.3.22)