梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

私家版・昭和万謡集・7・「旅のつばくろ」

7 「旅のつばくろ}(詞・清水みのる 曲・倉若晴生 歌・小林千代子)
《寸感》
 歌い出しは「茜い夕陽の他国の空で しのぶ思いは皆おなじ」、多くの日本人が夢を求めて渡った満州の地から、遠いふるさとをしのぶ思いは皆おなじという心情を、小林千代子の華麗な歌声が、鮮やかに描き出す。でも「泣いちゃいけない、笑顔をみせて強く生きる」のだ。そうした日本人の中に、私の両親もいた。昭和19年10月、母は私を産み落とした5か月後、翌年の3月に39歳で病死したが、「せめて私もふるさとへ、泣いちゃいけない笑顔をみせて、行こよ帰ろよ母のひざ」という思いでいっぱいではなかったか。父は応召、私は父の友人夫妻に預けられて満州から引き揚げたが、途中、同い年だった夫妻の愛息は落命したという。「泣いちゃいけない笑顔をみせて・・・」というリフレインを聴くたびに、私の胸は締めつけられるのである。(2023.10.21)



昭和戦前歌謡0062 旅のつばくろ 小林千代子さん