梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団花吹雪」(座長・寿美英二、桜京之介)

【劇団花吹雪】(座長・寿美英二、桜京之介)〈平成20年5月公演・浅草木馬館〉
関西の人気劇団、ゴールデンウィーク開催ということもあってか、館内は「大入り」、昨年、大阪・浪速クラブで見聞した時の雰囲気・情景が蘇ってきた。この劇団も、「人気」「実力」「財力」の三拍子揃った「本格派」であることは間違いない。
 芝居の外題は「道中夢枕」、主人公は江戸の三味線弾き(若座長・桜春之丞)、弟弟子に女房を寝取られ、「間男成敗」の道中、渡し船に乗り遅れて、近くの荒れ寺にやってきた。幽霊の出そうな雰囲気だが、玄関には酒瓶が置いてある。次の船が出るまで時を過ごそうと、その酒を口にしたところへ寺の住職(寿美英二)が登場。彼は無銭飲食を責めるわけでもなく、「まあ、いっぱいやりましょう」と言って、二人の酒盛りが始まった。酒の肴に「怖い話」などして笑い合う内に、村の娘(小桜あきな)がやってくる。「爺様が息をしていない。死んだかもしれんので、お経を上げに来てくんろ」、「よしよし」言って、住職退場。三味線弾きは、したたか飲んだ酒が回って、その場に昏倒状態。そこへ、草鞋を手にした若い男女(小桜真・?)が逃避行の風情で登場。暗闇の中で、三味線弾きに蹴躓いた。「いてえ・・」と、飛び起きた三味線弾き、二人の様子を見て「なさぬ仲」と邪推する。「一時の色恋沙汰で「現実の生活」がうまくいくはずがない。そもそものなれそめはどうなんだ?はじめにちょっかいを出したのは女の方に違いない。おい、お前、お前は騙されているんだ。今のうちならまだ間に合う。早く別れてしまえ・・・」などと独り合点して、男女と絡み合う景色が何とも面白く絶妙な舞台であった。いろいろと、問い詰めているところに、国定忠治(桜京之介)とその一行が「威風堂々と」登場。若い男女の「間男成敗」をするという。(女は忠治から逃げ出していたのだ)「やっぱりね!」と面白がる三味線弾き。それでも「やろうども、その男やっちまえ、女は生かしておけ」と指示する忠治に抗議する。「そりゃあおかしい!昔から間男成敗は二つに畳んで四つ斬りと決まっている。女を生かすなんて聞いたことがない」、忠治「それは、堅気衆の話、やくざにはやくざの定法がある」「だからこそ、おかしいと言うんだ。おれだって、自慢じゃないが、女房に逃げられた!たとえ、男を許すことはあっても、女だけは許さねえぞ!」と言ったとたん、一同、哄笑。忠治に殺られそうになっている男まで笑っている。いったいどうなってるんだ?訳のわからないうちに、なぜか立ち回り、三味線弾きが、はずみで手にしたドスが忠治の脇腹へ、「よくも親分をやりやがったな!」、日光円蔵の一太刀で、三味線弾きもあえない最後、意識を失った。ところがである。どこからともなく聞こえてくる女房の声、「あんた。あたしをもう探さないで。あたしは今、幸せにやってるんだから。お願い、もう探さないで・・・」その声に触発されたか、それとも「死ぬなよ」という客の声に応えたのか、三味線弾きがむっくりと起き上がる。「チクショウ、ヤラレタ、モウダメダ、イテエ・・・」などと、しきりに身体をかきむしっていたが「あれ?変だな・・・。どこにも傷がない。斬られていない・・・」と、言いながら、すべてを納得。これまでのできごと(住職退場後のなりゆき)は、「夢」だったのだ。「生きていたのは幸い、もう女房のことはあきらめ、一からやり直しだ!」と決心したところで幕となったが、大衆演劇の芝居では珍しい「力作」、若座長・桜春之丞の「熱演」が光っていた。さすがは、「劇団花吹雪」。舞踊ショーも「豪華絢爛」な内容で、本格的な「関西の舞台」を十分に満喫できた次第である。
(2008.5.5)