梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「浪花劇団」(座長・近江新之介)

【浪花劇団】(座長・近江新之介)・〈平成22年1月公演・大井川娯楽センター〉
座長の近江新之介は(私が愛好する)「鹿島順一劇団」の実力者・蛇々丸の弟ということで、かねてから見聞したいと思っていた。場所も、由緒ある東海地方娯楽の殿堂、役者も舞台も「絵になるのでは」と、胸ふくらませて参上してみれば、まさにドンピシャ、期待通りの結果であった。芝居の外題は「新月桂川」。主役・千鳥の安太郎に座長・近江新之介、その弟分に若手男優(芸名不詳)、桂川一家親分にベテラン・中村カズオ、その娘に浪花マオ、仇役・川向一家親分・蝮のゴン太、ゴン次(二役)に三枡ゆたか(?)、安太郎を慕う鳥追い女・お里に(座長の愛妻?)近江めだかといった配役であったが、何よりも「輝いていた」のが、脇役・中村カズオの老親分姿、続いて三枡ゆたかの「一見憎々しげ」な悪役振り、さらに鳥追い女・近江めだかのコケティッシュな風情が「格別」で、文字通り「芝居は脇役で決まる」典型的な舞台であった、と私は思う。その出来栄えは、「鹿島順一劇団」「近江飛龍劇団」とくらべて、いずれ菖蒲か杜若、甲乙つけがたい景色であった。座長の口上では、この劇団、「松丸家劇団」とも親類関係にあるとのこと、さすれば、初代・鹿島順一の血筋は「松丸家劇団」「鹿島順一劇団」「近江飛龍劇団」「近江新之介劇団」「おうみ悠劇団」に「脈々と」流れている、ということで、今さらながら血縁の絆の「強さ」を思い知らされた次第である。肝腎の座長・近江新之介の「芸達者ぶり」はさすが、義父は浪花三之介、兄は蛇々丸、義姉は笑川美佳といった「実力者」に囲まれて「育った」(か、どうかは定かではないが)、やはり血筋はあらそえない。舞踊ショー、役者の一人一人が、音曲の眼目を大切にして、精一杯「ドラマ」(独り舞台)を演じようとしている姿勢がたのもしい。五木ひろしの名曲・「傘ん中」を、扇子一本で(傘をもたずに)踊りきった役者は誰であったか(中村アヤノ?近江めだか?)、いずれにせよ、このような珠玉の舞台を提供できるのだから、座長!、「拍手請求」は(関東の客には)不要、不要、私自身は「拍手を忘れるほど」感動していたのである。
(2010.1.15)