梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団都」(総座長・都京太郎)

【劇団都】(総座長・都京太郎)〈平成23年9月公演・小岩湯宴ランド〉
「湯宴ランドニュース」(2011年9月 Vol.7)には以下の記事があった。〈劇団都 総座長・都京太郎 座長・都京弥 座長・藤乃かな 平成元年5月に旗揚げした人気劇団です。「忠臣蔵」など、侍物のお芝居が十八番で、舞踊ショーも見ごたえ充分です。長谷川京也が藤乃かなと結婚し、都京弥となり、今年4月に二人とも座長襲名しました。新しい座長も加わり、更に進化を遂げた「劇団都」にどうぞご期待下さい〉。昼の部、芝居の外題は「土方一代・岡崎の夢」。一匹の旅鴉(座長・藤乃かな)が岡崎の宿を通りかかると、ある宿屋の娘(天乃ゆき?)がら、いきなり「このお方や、わたしのコドモのおとうさんは!」と指を差された。旅鴉、驚いて「違う、違う」と否定するのだが、隠せぬ証拠は額の傷・・・。乳飲み子を抱いた宿屋の主人(特別出演・大門力也)も登場、「そうか、お前さんか!うちの娘にコドモを生ませた奴は・・・。お前さんが堅気なら婿として迎えるが、アンタはヤクザ、人間のくずだ。この子を連れてどこへなりと消えうせろ」と言い終わるや、乳飲み子を旅鴉に向かって放り投げた。あやうく抱きとめた旅鴉、心根は温かい好人物の風情で、「しょうがない、あっしが育てましょう。そのかわり、今後、どんなことがあっても、この子を返してくれとは言わないでしょうね」、主人、きっぱりと「知れたことだ、たとえお天道様が西から出ようとも、川の水が下から上に流れようとも、天と地がひっくり返ろうとも、わたしの首が落ちようとも、その子を返してくれなどと言うものか」と啖呵を切った。以来4年、旅鴉は「男手一つで」その乳飲み子を育て上げた。
コドモの名前は「新吉」(子役・都侑奈)、(今では土方となって懸命に働いている)旅鴉
に手を引かれて工事現場に登場。その姿が何とも愛らしく、そこに居るだけで「絵になる」風情を醸し出す。話の筋は、定番どおり、そこに本当の父親(侍、座長・都京弥)が現れて、宿屋の主人、娘(母親)ともどもに「その子を返してくれ」と懇願する。旅鴉、「とんでもねえ、この子はあっしのコドモでござんす!」と突っぱねるが、現場の親方(総座長・都京太郎)に諭されて、泣く泣く、コドモを返すことに相成った。「新坊、チャンはウソをついていた。オメエのおとっちゃんとおっかちゃんはあの人たちだ。そして、その隣に居るのが(チャンは気にいらねえ人だけど)オメエのおじいちゃんなんだ」と言いながらコドモの背中を押し出した、新吉、三人をしっかり見つめ、「違う、違う!おとっちゃんじゃあない、おっかちゃんじゃあない、おじいちゃんじゃあない」と言い放つ。すぐさま振り返ると、「オイラのおとっちゃんはオメエだよ」と泣きながら、旅鴉に抱きついた。文字通り「生みの親より育ての親」という芝居の眼目が、一瞬にして結実化した、珠玉の名場面であった、と私は思う。加えて、旅鴉こと藤乃かなが大詰めで、泣きながら奏でる竹笛の「子守唄」もお見事!、なるほど「劇団都」、「新しい座長」に、都侑奈という「名子役」も加わって、更なる「進化」を遂げたことを心底から納得した次第である。この劇団には、他に、三都見金蔵、四城かずや、天乃ゆき、光乃みな、華乃せりな等々、個性的で魅力的な座員が、綺羅星のごとく居並んでいる。今後は「適材適所」、彼らの「出番」が壷にはまれば、「更なる進化」は、より磐石なものになるであろうと思いつつ、岩盤浴に向かった。
(2011.9.10)