梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団光栄座」(座長・滝夢之助)

【劇団光栄座】(座長・滝夢之助)〈平成21年5月公演・つくば湯ーワールド〉                                                        芝居の外題は「地蔵の卯之吉」。大衆演劇の定番。見せ場は卯之吉(座長・滝夢之助)と侠客・小金井小次郎(初代・姫川竜之助)の「絡み」、とりわけ、卯之吉が小次郎から十両せしめようとして、飛んでいる蠅を捕まえ(小次郎から贈られた)酒に入れようとする場面だが、蠅を追う視線の動き、捕まえようとする「所作」」に合わせて、茶店の娘(音羽なつ姫)も「絵の中に割り込んだ」(卯之助の動きに「観客」的に注目した)景色は「呼吸もピッタリで」お見事、他の劇団では観られない光景であった。座長は初代・姫川竜之介の実子、だとすれば「劇団花車」の座長・姫京之助、二代目・姫川竜之助とは「兄弟」の間柄ということになる。なるほど、劇団の「芸風」は「九州味」でこってり風、芝居の出来映えは「水準並み」というところであった。花形・千姫音次郎はまだ二十代、しかし「三枚目」も達者にこなし、加えて「女形舞踊」への「変化」(へんげ)も魅力的で、将来が楽しみな有望株と見えた。
 舞踊ショーのラスト「三味線太鼓ショー」、初代・姫川竜之助の「舞台姿」、その勇姿と(太鼓の)バチさばきは、「至芸中の至芸」といっても過言ではない。あの「富島松五郎」が実在したとしたら、さぞかし「かくやありなん」といった風情で、舞踊の「無法松の一生」ともどもに満喫することができた次第である。
(2009.5.10)