梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

大衆演劇・劇団素描「劇団武る」(座長・三条すすむ)

【劇団武る】(座長・三条すすむ)〈平成20年2月公演・浅草木馬館〉                                                      
 昨日に引き続き「劇団武る」を観る。芝居は「かんぱち・身代わり仁義」、創作舞踊は「片割れ月夜」。昨日の座長の口上では「面白いお芝居」とのこと、期待して観に来たが、結果は以下の通りであった。<ミニショー>①旅姿三人男(都たか虎・夜桜紫龍・中村直斗):三人とも舞踊の「実力」は「水準」またはそれ以上であるが、振り・表情の中に、「三人男」(大政・小政・石松)の特徴が表れれば言うことはないのだが・・・。②「大阪すずめ」(都かれん):東京女に対する大阪女の意地を秘めて、「浮き浮き」と「弾むような」雰囲気が出てくれば・・・。(しっとり踊る必要はない)③「ヨンハチヨンのブルース}(副座長・藤千乃丞):「楷書的」な芸風に好感が持てる。④「唐獅子牡丹」(都たか虎):音楽はロック調、しかし衣装・振りは「高倉健」風、というアンバランスが目立った。いっそのこと、サングラスに須賀ジャンで「洋舞」に徹した方が雰囲気が出るだろう。⑤「見返り美人」(都なつき・都美千代):表情は「美人」だが、身体全体で「美人」をあらわせたらなぁ・・・。(「ちょっぴり美人」(「お祭りマンボ)でいっこうにかまわない)⑥「なにわの花」(座長・三条すすむ):衣装(かつら)・表情・所作・振り、を「総動員」して「藤山寛美」(もどき)を演じられればなぁ・・・。月城小夜子との「相舞踊」が実現できれば最高の舞台になるだろう。
<芝居・「かんぱち・身代わり仁義」>:なるほど座長の口上どおり、面白かった。特に、舞台を盛り上げていたのは、旅籠・吉野家の姉娘・おすみ(都美千代)である。この女優は、どんな芝居でも「とぼけ」「そっけなさ」「淡々」といった芸風で、味がある。「演技」の中に、自分の個性(地)を「取り混ぜられる」貴重な存在である。概して、「劇団武る」の芝居は「本格派」で、「重厚」「迫真」「緊張」に満ちた「葛藤」「愁嘆」を真骨頂としているが、そんな中で「ほっと息抜き」する場面を作り出せるのが、彼女ではないだろうか。同様に、まだ駆け出しの新人・都ゆうたろうの「とまどい」「不慣れ」な演技も、花を添えている。まだ「蕾」にもなり切れない新人に声をかけ、温かく見守る座長、先輩座員のチームワーク(やさしさ)に、私は感動する。座長、副座長、指導・勝次朗、重鎮・中山大輔、女優・月城小夜子らの「実力者」、それに次ぐ、夜桜紫龍、中村直斗、都美千代らの「演技派」、若手の都なつき、都かれん、都ゆうたろうと、まさに「役者は揃っている」。この芝居では、座長と副座長が「義理の兄弟」、「二枚目」を競い合う設定も面白かった。副座長が、「年下なのに可愛さでは座長に負ける」とぼやいていたが、まさにその通り、コミカルで可愛い座長、「二枚目」は「楷書的」な副座長、という役割分担(二枚看板)に徹することで、今後の展望が大きく開けるのではないかと思う。座長の女形は、絶品であり、若葉しげる、市川千太郎、(場合によっては女優・市川恵子、月城小夜子)と「肩を並べている」(勝るとも劣らない)のである。
<舞踊ショー>①花笠月夜(たか虎・紫龍・直斗・かれん・美千代・なつき)②「風雪流れ旅」(座長)③悲しい酒(副座長)④人間劇場(直斗)⑤すきま風(歌唱・座長)⑥あいつ(紫龍)⑦じょんがら子守唄(かれん・みちよ・なつき)⑧うちの人(月城)⑨八木節一代(紫龍)⑩傘の中(副座長)⑪ランド(?)舟歌 ⑫時代屋の恋(座長)⑬雨の大阪(勝次朗)⑭ラストショー・片割れ月夜
 以上がその演目であった。舞踊ショーの眼目は、「踊りを観せながら、実は、歌を聴かせる」ところにある。観客は、歌そのものが秘めてる三分間のドラマを、役者の舞踊でたしかめ(噛みしめ)ているのである。だとすれば、歌そのものの「良し悪し」が、舞踊の「できばえ」を左右することは必定であり、まず選曲に細心の注意を払うことが必要であろう。つまり、舞踊ショーの演目は、「流行歌」として一級品の作物をとりいれることが肝腎である。一級品の「流行歌」と、一流の「舞踊」が「合体」したとき、「至芸」が誕生する。今日の舞台では、副座長・藤千乃丞の「悲しい酒」が「至芸」に相当する。(ただし、「悲しい酒」は、都はるみ、文殊蘭の作物もあるので、それらを聴き比べながら、踊り分けられるようになれば、まさに盤石と言えるだろう)「傘の中」(五木ひろし)も「水準」を超えていたが、「楷書的」芸風のためか、やや「男の色香」が不足気味だった。「風雪流れ旅」「時代屋の恋」(座長)、「うちの人」(月城小夜子)、「雨の大阪」(勝次朗)は、いずれも「舞踊」は一流、申し分ないのだが、「歌」の方がそれに及ばない。(選曲のミスが残念だった)息抜きとして、(あるいは若い客層に合わせて)観せるだけの「舞踊」(ジャズ、ロック調、曲芸風ののダンス)があってもかまわない。しかし、その演目だけが続くと「飽きる」ので気をつけたい。 
 ちなみに、これまで観た「舞踊ショー」の中で「至芸」に値する演目は以下の通りである。①「明日はお立ちか」(梅澤隆子)②「それは恋」(梅澤武生・梅澤富美男)③「お吉物語」(大川龍昇)④「俵星玄蕃」(南條影虎)⑤「麦畑」(荒城蘭太郎・子役)
 以上、昨日の「不満足な」気持ちは、払拭され帰路につくことができた。
(2008.2.14)