梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「ここまでわかった新型コロナ」(上久保靖彦、小川榮太郎・WAC・2020年)要約・31・《■「もうすぐ収束、東京五輪は必ずできる」》・【完】

■「もうすぐ収束、東京五輪は必ずできる」
【小川】渡航制限を今後どうすべきか。アメリカやヨーロッパ。
【上久保】我々のリスクスコアを見ればわかる。医療崩壊が起こるレベルで感染爆発するようなリスクを事前に示せるから、それを適用する。
【小川】テキサスのリスクスコアは高かった。
【上久保】カリフォルニアもそうだ。そういう所は医療破綻を起こさないよう、ロックダウンを早期に、そして長くするしかなかった。ゆっくり感染して、人工呼吸器につなげなければならない人の増加率を緩やかにする。マンパワーを充足する。人工呼吸器、ECMOを先回りして充足する。
【小川】9月以降、秋、冬、来春にかけては、世界はどうなるか。
【上久保】欧米が沈静化した後、ブラジルが死亡者第2位になり、長引いた。医療破綻を起こし続けているのだろうから、当然ロックダウンしなければならない局面が続いていたことになる。ブラジル大統領はロックダウン不要論に固執していたが、あれはする必要があった。
【小川】日本については、渡航制限を解除すれば、ほとんど重症者・死者は加算されないという事でよいか。
【上久保】そうだ。むしろウィルスに曝露して、増幅させるべきだ。
【小川】国内では、自粛が長引いているけど、動いてはいる。今ぐらいだと、感染が再度大幅に拡大する確率は低いと考えてよいか。
【上久保】大丈夫だと思うが、まったく閉めている施設や注意しすぎている老人については危惧がある。5月のゴールデンウィーク明けから開くべきだと言ってきたが、あれから4か月、時間がかかりすぎている。そこに一抹の不安がある。
【小川】高齢者にとっては、あれだけ不安が募る状況が続けば、心配で用心する人が多かった。
【上久保】そこが難しい所だ。本当はしなければならない事と今の自粛は180度逆行するので、免疫記憶が薄れると、次の流行が起きてしまう。しかし、今のところ、特別なケースを除いて、日本人一般の免疫記憶は現状では大丈夫だと考える。
【小川】東京オリンピック・パラリンピックについて、来年夏に開催できるようにするにはそうすればよいか。
【上久保】今年の12月までに、日本のみならず、世界でも新型コロナはほぼ終わる。そこで、完全に世界中が移動制限を解除すれば、オリンピックは問題なく開催できる。来年はスパイクの変異のコロナの年ではなく、普通のコロナ風邪の年だから。
【小川】できるだけ早くそういう予測を科学者たちに検討してもらわないといけない。来年は大丈夫だという話を、世界の専門家のコンセンサスにしなければならない。
【上久保】そうだ。まだロックダウンした方がいい国や地域は残っている。しかし、世界中で12月には全部終わるから、全面的に解除すべきだ。
【小川】12月には世界中で、感染の波はもう来ない?
【上久保】もう何もないと思う。経済の方が問題だ。コロナの死者よりも働き盛りの健常者が自殺に追い込まれる可能性は格段に高まり続けている。最後に提案させてもらいたい。米国CDC(疾病予防管理センター)のように、大規模でなくても、日本版CDCを創設すべきだ。微生物学者、免疫学者、創薬の専門家、遺伝子変異解析の専門家、感染症の臨床経験の豊富な医者、検査というものをよく知っている専門家、疫学の《本当の》専門家、経済の専門家、法律の専門家、倫理の専門家が一人ずついたらそれでいいので、10人くらいでもいい。本当に真摯な専門家で日本版CDCを創設すべきだと思う。それを参考に正しい政治的決断ができる政治家が政権にいれば大丈夫だ。
【小川】全く同感だ。この数十年の日本は能力本位のダイナミックな人材登用が非常に乏しい。だから非常時に対応するダイナミズムが生まれにくい。そんなところに政府が既得権益層に諮問して多額の予算を付けて重々しい専門家チームを作ったりCDCを作ったって、どんなものができるか見当がつく。政府にその力がなければ民間でそうした組織を作って、強力なロビー活動を展開した方がまだ早い。残念ながら、それが日本の現状だ。



【感想】
・2020年9月の段階で、上久保氏は12月には世界中で収束すると予測していたが、米国、インド、ブラジル、英国、ロシアなどは2021年1月から2月にかけて感染者数は半減とWHOが指摘、ようやく収束に向かい始めたようだ。日本でも2020年11月以降「第三波」の拡大が見られ、年明け直後からは「緊急時対宣言」が出され、3月まで延長されている。しかし、厚生労働省のホームページによれば、「感染者数」(PCR検査陽性者数)は《相変わらず》増えているものの、1月20日から、「有症者数」(入院治療等を要する者の数)は減少を始め、それまで7万人を超えていたが、2月16日現在では2万3000人弱だ。同様に「重症者数」も650人弱まで減少している。ということはどういうことなのだろうか。これで「第三波」が収まり、収束を迎えるのだろうか。上久保氏の予測が2か月延びたと考えてよいのだろうか。
 東京新聞朝刊には連日「世界の新型コロナ感染者」が表示されているが、2月16日から「在留邦人の多いアジア5カ国」の感染者・死者数も示されるようになった。それを見ると、日本(感染者41万386人、死者7056人)より多い国はインドネシア(感染者121万7468人、死者3万3183人)だけで、他は日本を大きく下回っている。・中国(感染者10万559人、死者4829人)・韓国(感染者8万3869人 死者1527人)・オーストラリア(感染者2万8900人、死者909人)・タイ(感染者2万4714人、死者82人)。発生源であり、人口も日本の数倍多い中国が日本より少ないという現状には驚いた。韓国も人口は日本の半分以下だが、感染者も死者数も5分の一程度に収まっている。この「差」は何によって生じているのだろうか。中国や韓国はどのような対策を講じたのだろうか。
 上久保氏らの言う「集団免疫」が功を奏したのだろうか。
(2021.2.19)