梨野礫・著作集

古稀を過ぎた老人が、これまでに綴った拙い文章の数々です。お読み捨てください。

「ここまでわかった新型コロナ」(上久保靖彦、小川榮太郎・WAC・2020年)要約・20・《■集団免疫のメカニズム》

■集団免疫のメカニズム
【小川】集団免疫のメカニズムはどうなっているのか。
【上久保】ウィルスのRO値が、一人から何人に感染するかを示す。例えば、2.5人ぐらいにしか感染する力がない場合、周りに50何%の人が既に免疫を獲得していると、もうそれ以上、ウィルスは感染していない人に当たれない。でもROが5というくらい感染力が強くなると80%ぐらいのひとが感染するまで免疫のない人に感染し続ける。
【小川】免疫を持っていない人に出会うか出会わないかという確率論の話だ。感染力が弱いと、ウィルスが非感染者に出会えなくなってしまう、だからその一定の人数で感染が止まるわけだ。
【上久保】そういうことだ。ROが1以下になると、もう一人にうつせなくなってしまって、収束する。
【小川】集団免疫というのはマクロの理論だ。52%で止まると言っても、ミクロの話で、私が新型コロナウィルスをたくさん持っていて、先生はまだ感染していないとしたら、やっぱり個人としてはうつる。
【上久保】出会ったらうつる。
【小川】ただ確率論としては、もう52%で全体としてはそこで止まるという話だ。
【上久保】そういうことだ。だから集団免疫という言葉が誤解を生むなら、何%感染して既に免疫を持っている、ということでいい。
【小川】一定の人数までうつってしまうと、それから後はウィルスを持っている保有者と、持っていない人が出会わなくなってくる。
【上久保】そうだ。出会えない。出会えないからウィルスが消える。個々の人の中でも2週間経って、抗体ができたら消える。でも90歳くらいの人で寝たきりになっているような人のところにウィルスを持って行ったら、亡くなることはある。
【小川】集団免疫があるから、誰にもウィルスがうつらないという話ではない。マクロと個別例を混同すると誤解を呼ぶ。
【上久保】ただ、うつっても大丈夫な状態が集団免疫だ。免疫を持つ人の割合が一定の値に達すると、病気が徐々に集団から排除されるようになる。これを集団免疫と言う。
【小川】そこがもう一つわからない。
【上久保】今、重症者や死者が非常に少ない。これは既に多くの人が既感染パターンだからだ。その人々が免疫の壁となってウィルスの前に立ちはだかっているので、感染させようと思っても、まだ免疫を持っていない人に出会うことができない。こうした状態を、個人の免疫ではなくて集団免疫という。
【小川】ウィルスが拡散しようがない状況が生まれるようになる。そうした状況を重ねていくうちに、皆、何度も感染を重ねて免疫記憶を持つようになる。
【上久保】二度目、三度目、四度目、五度目。ブースター効果と呼ばれている。自然に感染した時や予防接種を受けた時に、再感染、あるいは予防接種を再び受けると、エンジンがかかって、血中の抗体が前より、より強く、早く、さらに高く上がる性質がある。これをブースター効果と言う。これは生体の免疫担当細胞が出会った病原体をメモリーとして記憶しているためだ。抗体もそうだが、再感染がなければ徐々にレベル以下に低下してしまう。生ワクチンでは抗体は長期間持続はするが、地域に感染症が無くなれば抗体はレベル以下に低下しもう1回接種が必要になる。
【小川】新型コロナの抗体ができる、免疫ができると言うけれど、旧型の抗体は全然効かないのか。
【上久保】ウィルスのスパイクではなくN抗原という部分には旧型と新型で一致する抗体ができる。
【小川】スパイクに変異が入るのが新型コロナだからN抗原の部分は共通なわけだ。
【上久保】N抗原に対する抗体は結構残る。だから、3年前、4年前の検体を見てみたら、T細胞の陽性率が4,50%ある事が学術誌「Cell」などにいくつか出ている。S型とK型より前の、スパイクの変異が起きていない時の検体でも免疫記憶が残っている。これを交差反応という。「Cell」に掲載された米国の論文では、風邪のコロナウィルスに感染した経験をT細胞が記憶しており、新型コロナウィルスに対しても反応することが報告されている。ある病原体に対して起きる免疫反応が、別の似た病原体でも起こりうる、こういうことを「交差反応」という。
【小川】「交差反応」は今回も働いているのか。
【上久保】働く。
【小川】それは興味深い。変異に対して、旧コロナでの免疫記憶は有効で、さらに新型に感染することで新しく対応できる抗体されるという理解でよいか。
【上久保】おおむねよろしい。


【感想】
・「感染しても発症しなければよい」ということがよくわかった。ツベルクリンの「陽性」と同様に、新型コロナの場合も「陽性」になること(感染すること)が重要であり、無症状または軽症のままで終われば、抗体ができて、再感染しても発症しにくくなるということだと思う。逆に、感染していないと、免疫がないので、感染した場合、発症化(重症化)しやすくなる。
・2月5日現在、国内の感染者数は40万2300人、全人口の3%程度に過ぎない。それが「集団免疫」の《結果》なのか、それとも《始まり》なのか。上久保氏の指摘通り、S型とK型で「集団免疫」を獲得しているからだとしても、11月以降の死者数の増加についてはどのように考えればよいのだろうか。特に、上久保氏は2020年8月の時点で「コロナは収束している」という見解だったと思うが、その後の推移についてはどのように考えているのだろうか。
(2021.2.8)